1台でも多く、コンディションのいいAE86を後世に送り出すために|進化する「頭文字D」レプリカ vol.5【1】

j-blood製カーボンボンネットも装着。機能部品と内装を組みあげれば、夢の公道デビューを果たせる段階になった

       
トレノとレビンの違いはあれど、主人公・藤原拓海と同じAE86乗りとして時として対峙し、時として拓海へ走り屋としての道を教える秋山渉。深みのある描かれ方は、とても不思議な関係に映る。その秋山が駆るマシンのレプリカ製作が、いよいよ佳境に突入した。

【進化する「頭文字Dレプリカ」 vol.5[1]】

 時代は確実に動いている。先ごろ報道された「マツダが初代ロードスターのレストアプランへ着手」というニュース。具体的には2017年後半をめどにNAロードスターのレストア受付けを開始、同時に製造廃止になっていた純正パーツも復刻させるというもの。もし実現すれば国内メーカーとしては初の試みだ。

 言葉を選ばず言うならば、これまで自ら送り出した「作品」を、自らをもって「絶命」させる方針しかとらなかった国内自動車メーカー。とくにリーマンショック以降は、在庫管理と流通経費の負担を理由に、ハチマル世代の車両の純正パーツ供給を次々にストップ。

 ふんだんにコストを掛け自社ミュージアムで維持する車両は別にして、個人所有のビンテージカーに向ける目は冷たかった。「名車」とは、あくまでファンが認めるものなのに、だ。

 マツダが突破口を開き、古き良きクルマにも安心して乗り続けられる環境を整えてくれることを期待しながらAE86に目を向けてみる。製廃パーツが相次ぐ厳しい現状は、大企業トヨタをしてもまだ手つかずの領域であり、カーランドに代表される民間業者が孤軍奮闘しているのが、残念だが現実だ。

「1台でも多く、コンディションのいいAE86を後世へ残す」。頭文字D仕様の製作においては、劇中車両の検証スキル、パーツ調達ネットワーク、製作ノウハウの3拍子が高次元で揃うオンリーワンのプロショップであるカーランド。車両の完成度に目を奪われてしまいがちだが、根底には得知雅人代表のAE86の永年動態保存実現への理想が流れている。

 声優・鶴岡聡さんとカーランド代表・AE86マイスター得知さんとのジョイントベンチャーである、「秋山仕様製作プロジェクト」。

 頭文字Dストーリー中では、闘志あふれる走り屋キャラとして描かれる秋山。しかし多くの頭文字Dファンが主人公・藤原拓海のライバルとして浮かべるのは、レッドサンズの高橋涼介・啓介兄弟だろう。実家が開業医というアドバンテージを生かし、マシンへ何不自由なくコストを掛けられる高橋兄弟。それと比べ、秋山は清貧だ。その経済環境は、まだ十代の妹を住み込みで働かせるため、伊香保温泉の旅館へと送り出すしかなかった家庭の事情からも察しがつく。

 ただし、バトルに勝つためには手段を選ばないのも秋山。理想のマシンへ近づけるべく、ターボからスーパーチャージャー(以下S/C)仕様へとエンジンをコンバートした。ハチロクを知り尽くした秋山の口ぶりからおそらく過給器仕様の前にはメカチューン時代もあったことは想像に難くない。

 3基にわたるエンジンの変遷、この作業を仮に専門ショップに頼んだとするならば、どう安く見積もっても300万円を優に超える金額は覚悟しておくレベルだ。けっして恵まれてはいない家庭環境のなかで、それだけの虎の子を投入しマシンを作る心境。これが熱さでなくて何であろう。

【画像16枚】作中では、主人公藤原拓海と同じAE86を操る秋山渉。けっして恵まれてはいない環境だが、車に対する情熱を持っている


>>ホイールは鶴岡さんの好みにあった「GAB SPORTS」を発掘。「トヨタ車といえばミシュラン」という鶴岡さんのこだわりで、タイヤはPS3をセット。リアル秋山仕様のホイールは、得知代表が見つけて、すでにストックしているとのことだ。


>>スポイラー一体型のリアゲートも現在では入手困難。忠実にレプリカするためリアワイパーレス、鍵穴レスの「男気」仕様だ。


>>東京から京都へ。製作も大詰めへ向かう秋山仕様にひさしぶりに再会した鶴岡聡さん(右)とカーランド得知代表。



【2】へ続く


初出:ハチマルヒーロー 2016年11月号 Vol.38
(記事中の内容は掲載当時のものを主とし、一部加筆したものです)

進化する「頭文字Dレプリカ」 vol.5 (全3記事)

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text:Kiyoshi Hatazawa/畑澤清志 photo:Minai Hirotaka/南井浩孝 Cooperation : カーランド

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