『頭文字D』を少しおさらい。敵に塩を送ってでも互いにベストな状態で戦いたいという崇高な倫理観の持ち主、それが秋山渉|進化する「頭文字D」レプリカ vol.008[1]

2戦ともに、消化不良のバトルで終わっている秋山と啓介。ストーリーが続いていたなら、きっと行われていたであろう3度目のバトルを再現

       
【進化する「頭文字D」レプリカ vol.008[1]】

 劇中において、全48のバトルシーンが描かれていたコミック版「頭文字D」。そのうち主人公・藤原拓海が戦ったのは28戦。正確には3戦は借り物マシンなので、藤原とうふ店仕様のAE86トレノによるバトルは全25戦ということになる。もっとも小排気量ではスズキ・カプチーノ、重量級ならR32GT-Rと数多くの相手と対戦してきた拓海だが、AE86同士の同門対決はわずか2戦しか描かれていない。そのうち1戦を戦った相手が、秋山渉というレビン乗りだ。

 たった1戦のバトルでありながら、作品に鮮烈な爪痕を残している秋山。これまで7回に渡りお伝えしてきた京都のAE86スペシャルショップ、カーランドによる秋山渉レビンの実車化プロジェクト。スーパーチャージャー(S/C)仕様の4A-GZE型エンジンに換装され、原作に忠実に秋山仕様を再現した内装がすべて組み上がったマシンを前にすると、秋山が放ったセリフが聞こえてくるようだ。

 「群馬エリアにすごいハチロクがいるって聞いたんだけど」と、埼玉から拓海のホームにおもむき接触を試みる秋山。そこで、じつはグループA仕様というとんでもないエンジンに載せ替えられていたにもかかわらず、その価値と操り方をまったく理解していなかった天然キャラの拓海と出会う。

 実はハングリーすぎるくらい勝ちにこだわる秋山。宝の持ち腐れ状態である拓海の実態を知ったことで、普通に考えるならばバトル前に「勝負あった」という状況だが、秋山は予想もしない行動に出る。

 「なんでとうふ屋がこんなエンジンを手に入れられるんだ?」といぶかしがりながらも拓海のマシンに同乗。純正タコメーターのレブリミットを従順に守っていた拓海にひと言「一番おいしいところが封印されて使えないでいる。オレの見こみ違いでなければこのエンジンは1万回転オーバーまでラクにブン回るはずだ」と、速く走るための助言を与えるのだ。背景にあるのは、お互いベストな状態で戦いたいという秋山の崇高な倫理観だ。とはいえ、やさしいだけではなくこうも放つ。

 「今までオレはハチロク乗りに仲間意識をもつことはあっても敵意をもったことはなかった。こんなことは初めてのことだが おまえには絶対負けたくないとオレは今思っている!!」と、同じAE86に乗る者同士として、あらためて闘志を燃やした。

 さらに「いくらクルマを運転する技術がすごくても……おまえには走り屋として大事なものがポッカリと欠けているぜ!!」と下した熱き鉄槌は拓海を走り屋として覚醒させ、その後はご存じのとおり、群馬の秋名山という狭い世界から関東全域へとバトルのフィールドを広げていくことになる。

 最終回までに描かれることはなかったが「後に世界のフィールドで頭角をあらわし 不世出の天才ドライバーと呼ばれるようになる男」──藤原拓海(ヤンマガKC48巻・拓海外伝より)。ぼんやりした高校生だった拓海が、本物のレーシングドライバーへと成長するきっかけを与えた男、それは間違いなく秋山なのである。

 そんな秋山が、2度もバトルを挑んだ相手がいる。それがFD3S RX-7に乗る高橋啓介だ。赤城を拠点としたレッドサンズに所属する啓介の走りを見かけた秋山。埼玉西北エリア最速のプライドが、秋山の闘志に火をつけた。正式にバトルを申し込むもにべもなく断られるが、待ち伏せしゲリラ戦を挑む。

 ファーストバトル時の秋山は、4A-Gターボ仕様だった。秋山の妹・和美の証言によれば「過給圧をいちばん上げると280馬力くらいかな」という。過給機、ロールバーなどの重量増を見積るとすると車重は980kg前後だろうか。そのパワーウェートレシオは3.5kg/ps。現在なら、新型NSXと肩を並べるほどの数値だ。当時はライトチューンで350psだった啓介のFDを下りで追い回すもアクシデントがあり勝負はドロー。

 それから拓海とのバトルをはさむのだが、マシンの性能と腕が両者拮抗するデスマッチの末、集中力を切らしてしまった秋山は一瞬のスキを突かれ拓海に敗れた。負けた悔しさから、おそらくは走り込みすぎてエンジンブローしたのだろう。そして、拓海のメカチューンに勝つためには、パワー重視のどっかんターボではなく、レスポンスに勝るS/Cしかないとマインドシフトした。エンジン載せ替えと同時にカーボンボンネット化、ホイール換装など秋山のマシンが「後期」へとバージョンアップするきっかけになった。
【画像11枚】モチーフとしたのは、この後期仕様。エンジンルームが描かれるカットがわずかではあったが、しげの秀一先生がおそらくは90年代半ばのカー雑誌&ビデオを参考にして描いていたため、使われているアイテムのブランド特定にはさほど時間がかからなかった



>>「俺がハチロクにこだわるのは、古いクルマだからというハンデを逆手にとって相手を追い詰めることが快感だった」。つねにハングリーなのが秋山なのだ。

【2】へ続く

進化する「頭文字D」レプリカ vol.008(全3記事)
初出:ハチマルヒーロー 2017年5月号 Vol.41

(記事中の内容は掲載当時のものを主とし、一部加筆したものです)

関連記事:進化する「頭文字D」レプリカ

TEXT:KIYOSHI HATAZAWA/畑澤清志 PHOTO:MINAI HIROTAKA/南井浩孝

RECOMMENDED

RELATED

RANKING