ボディがまるでサスペンションの構造材のひとつ、AE86の骨格考察【1】進化する「頭文字D」レプリカ

ボディパネル、灯火類を組付けるための目安になる数値。そしてさらに目視による微調整が行われる組付け

       


「AE86のフレームは、基本に忠実な作りであり、まるで白米のようにシンプルでクセのない設計といえます」(得知代表談)。
 いわば真っ白なキャンバス。サスペンションやタワーバーなど、どこかひとつのパーツを交換したなら、その変化が劇的に体感できる、とても素直な特性を持っているのがAE86の骨格なのだ。どんな色にも染まることができる、ここまで長く愛される理由のひとつ「カスタマイズする喜び」は、実は骨格に秘密があったのである。

 プロの目から見ても「たとえば、サスペンションを固めたときにボディがどう動くか、という予測が立てやすい」という。

 それだけにアフターメーカーの個性を反映させやすく、さまざまな方向性がまた、AE86ユーザーに遊ぶ楽しみを与えてきた。

「ボディ全体を箱ととらえると分かりやすいと思います。AE86の場合、その箱が上手にしなることで独特の走りのフィールを生み出しているのです。経験あるオーナーさんもいらっしゃるかもしれませんが、コーナーを攻めたときルームランプが点いたことはありませんか? それが、ボディがしなっている証拠です。雑巾を絞るシーンをイメージするとわかりやすいと思います。端を絞ると、少し遅れて反対側にねじれが伝わる、あの感じです。だからこそ、ボディを局部的に固めるだけの補強は、AE86にとって絶対におすすめできないんです」

 ボディがまるでサスペンションの構造材のひとつ、と理解していいAE86。以前にも触れたが、得知代表はやみくもなボディ補強へ「ダメ、ゼッタイ」を貫く断固たる反対派だ。昨今増えてきた「長く乗り続けたいから、ボディを補強しておきたい」というニーズ。それは間違った知識だと断言する。

「補強するために行うスポット増し。その際に発生する熱が、ボディをサビさせる一因になるのです。メディアの影響もあってか、良い保存状態を保つためにはボディの補強が必須だと刷り込まれてしまっている方が多いようですが、真実は違うんです」

 補強を前提とするモータースポーツの世界では、酷使されたボディはサビるより先に寿命がやってくる。数戦ごと、シーズンごとにボディを「箱替え」することが当たり前の業界には、年数を持たせるという発想はそもそも持ち得ない。それを保存目的の車両に同じ考えを当てはめるのが、そもそも間違いなのだという。

「補強をやらない方がサビが回らないため、ボディは長持ちします。もしどうしてもするなら、溶接でできたコブを成形して平たくし、シーリングをしたのちに防錆処理、そしてサフェーサーからの塗装、と万全の工程を踏まなければなりません」
 1台でも多くAE86をこの世に現存させていきたいと考えるカーランド。将来のことを考え、手間は惜しまない。

 車両を製作する場合は、オーナーとじっくりと話し合う。
「どんなステージを走るのか、どのようなシチュエーションで使われるのかをしっかりお聞きしてから、希望に応じた最適なプランを提案します。もちろん、そのクルマ固有のヘタリ具合を加味しつつ、走りを優先したいなら、それに応じた必要十分な補強も進めています。理想のセットを追求するお手伝いはお任せください」

 AE86ドクターとも言える得知さんは、頭痛の患者さんに胃腸科を案内してしまうような笑えないミスは絶対に犯すことはないのだ。ボディ補強した数年後に、それに起因したサビの発生で悩ませられるユーザーは少なくないという。長く乗るために何が大事か、冷静に理解しておきたい。

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>> 下地処理~塗装工程の先には、4A-GZE型搭載が待っている。補強も最低限で済み、ボディ寿命を犠牲にすることは回避できそうだ。





>> スポット増しと同じく、フェンダーのツメ折りも、中古車査定の観点からいえばマイナス査定となる。秋山仕様はツメを温存することに決定。


【2】に続く


初出:ハチマルヒーロー 2016年 7月号 vol.36
(記事中の内容は掲載当時のものを主とし、一部加筆したものです)

進化する「頭文字D」レプリカ「しなり」を生かした長寿命の秋山仕様へ(全2記事)

頭文字D

text : KIYOSHI HATAZAWA/畑澤清志 photo : HIROTAKA MINAI/南井浩孝

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