710と910「それで同じ日に2台とも買ったの」|今も色あせない「DATSUN」の輝き【1】

自宅に並んだガヤルドさんのダットサンコレクション。グレーの1972年式510はアマンダさんにプレゼントするため、仕上げに向けて現在格闘中

       
【ニッポン旧車の楽しみ方第48回 今も色あせない「DATSUN」の輝き vol.1】

日本においては、おもに910までのブルーバードやピックアップトラックのブランド名として知られる「ダットサン」。アメリカにおいては多くの日産車が「NISSAN」ではなく「DATSUN」の名称で販売されていた。「ダッツン」「ダツン」などとも読まれ、ある意味、日本以上にアメリカでなじみの深いブランドが、ダットサンなのである。

1982年式 ダットサン マキシマ、1976年式 ダットサン 710 ワゴン、1972年式 ダットサン 510、1971年式 ダットサン 510


ダットサン。そう聞くだけでもう、居ても立ってもいられない。ダットサンという名前への親近感と、そのクルマを好んで止まない愛好家同士の仲間意識は、トヨタやホンダのそれとは違う。ダットサン。その一言だけで、それはもうリアルタイムでは体験のできない、時を超えた世界感を映し出す特異な響きを持っているのだ。

「昨年6月のことでした。インターネットで売りに出ているのを見つけて、どうしてもそのまま見過ごすことができなかった」

オーナーのアール・ガヤルドさんは黄色いダットサン710の入手の動機を語った。広告を見ただけで親しみを感じ、どこか知らないところへ売られていってしまうことに無意識の寂しさを覚えたからに違いない。郷愁ではなく、親近感が募ったのだった。

「710とほぼ同時に910系ダットサン・マキシマも見つけました。マキシマも結構レアものだったし、互いに場所が近かったので、まとめて見てみようと思って出かけたんです」

続けたガヤルドさんの言葉を、アマンダさんがすぐにフォローした。

「それで同じ日に2台とも買ったの」

ガールフレンドのアマンダさん自身も、父親のダットサン510の周りで育ったというダットサンファンである。ダットサンという存在がファンを引きつけるもの。それは感情面だけでなく、じつは実用的な側面もある。

「買った2台のうちマキシマのほうは最初の頃は、トランスミッションとかフロントメンバーとか、最悪の場合には510のパーツ取り用にしてもいいだろうと考えていたんです」

ガヤルドさんが説明したように、ダットサン同士や日産車のパーツ互換性の良さは、改造ファンにはよく知られた事実である。

「それでも実際にマキシマを運転してみたらすごく安定して走るし、ディーゼル車だからスモッグ定期検査も不要で燃費もいい。40mpg(17km/L)だって可能。だから通勤にはもってこいで、整備だって自分でできる」

運転を体感して考えの変わったガヤルドさん。手に入れたマキシマの質の高さを見抜いたのは、実は職業柄だった。プロのメカニック、それもディーゼルエンジンが専門だ。

「エイティーンホイーラーとか知ってますか。でっかいトラック。あれを整備するメカニックです」

ガヤルドさんのおじいさんが1973年に始めたトラック専門の整備工場。それを手伝う形で働くようになり、知識を増やしていった。

「子供の頃から夏休みになればいつも工場の手伝いばっかり。敷地内で移動させる必要もあって、初めてトラックを運転したのは12歳のときでした」

小学生の男の子が座っているトラックの運転台。回りからはさぞかし奇妙に見えたことだろう。。

【画像14枚】510譲りの独立懸架が引き継がれ、当時の宣伝では同時期のダットサン280ZXとの動力系の共通性が強調されていた910など


>>アール・ガヤルドさんはおじいさんから3代続くダットサンファン。ガールフレンドのアマンダさんも父親のダットサン510に触れながら育った。「さっき510を運転してネイルサロンに行って来たの」というアマンダさん、普段の足グルマはATの新型ジープだが、MT車の運転もお手のもの。


>>ガヤルドさんの働くトラック整備工場はカリフォルニア州ヘイワード市の工業地帯の一角にあった。敷地の奥に並んでいたのは18(エイティーン)ホイーラー(エンジンのあるトラクター部分が10輪、けん引される荷台のトレーラー部分が8輪のためこう呼ばれる)のトラクター。エンジンは12Lや15Lの直列6気筒ディーゼルで、トランスミッションは多いもので15速にも及ぶ。整備作業はほとんど屋外で行い、急ぎの仕事中に雨が降ったりすると屋内に引き入れることもあるという。


>>「エンジン不具合の診断が好きなんです。何が原因なのか考えることが楽しいから」とガヤルドさんは言う。フロントのエンジンフード部分はFRP製だ。アメリカのフリーウェイには所々に貨物車検査所があって積載重量計量や安全点検が課され、整備不良に対しても違反切符を切られる。「ブレーキ液漏れの修理なんかも入ってくるけど、直すだけの仕事ってあんまり面白くない。でもきちんと整備してやれば10年以上は快調に走れるし、100万マイル程度の走行距離はこの手のトラックでは普通です」。



初出:ノスタルジックヒーロー 2019年4月号 Vol.192
(記事中の内容は掲載当時のものを主とし、一部加筆したものです)

今も色あせない「DATSUN」の輝き(全3記事)

シリーズ: ニッポン旧車の楽しみ方

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【2】へ続く

text& photo: Hisashi Masui/増井久志

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