ランボルギーニ・カウンタック:新旧比較試乗でわかった、変わるものと変わらないもの。

ランボルギーニ・カウンタック:新旧比較試乗でわかった、変わるものと変わらないもの。

       

カウンタックをカウンタックたらしめる要素とはいったい何か。もちろん、ガンディーニによるスタイリングが世界を圧倒したのは紛れもない事実だ。何しろあのカタチを見た誰かが「クーンタッシ」(びっくりこいたなぁもう)と叫んだことから、この名前になったくらいだ。奇才による奇跡のデザイン。それは間違いない。けれどもガンディーニは決して、単に奇抜な思いつきだけであのデザインを描いたわけではなかった。カウンタックにはあのデザインとなるある種の必然性が隠されていたのだ。
 そのことを語るためには、カウンタックを生み出したもう一人の天才に登場していただかなければならない。その人の名はパオロ・スタンツァーニ(故人)。彼なくしてカウンタックは決して生まれなかった。パオロが捻り出したとあるアイデアがなければ、マルチェロによる奇跡のデザインもなかったと言っていいだろう。
 それは長く巨大な12気筒エンジンをリアミドに縦置きとする一方で、これまた大きなトランスミッションをキャビン側に潜り込ませるというアイデアだった。
 60年代末にジャンパオロ・ダッラーラの後継者として開発部門の指揮を取ることになったスタンツァーニは、すぐさまV12横置きミドのミウラに代わるフラッグシップモデルの開発に取り掛かっている。彼はエンジンの縦置きにこだわっていた。そのほうがダイナミック性能に優れており、顧客のミウラへの不満を解消できると踏んだからだ。
 けれどもエンジンを縦に積むと通常ミッションケース本体がリアアクスルから後方へと大きく張り出してしまう。ル・マン用のレーシングカーならともかく、ロードカーとしては全長的にも、またトランクスペース的にも成立しなくなる。
 巨大なパワートレーンをどうすれば縦置きリアミドにできるのか。8気筒にすれば話は簡単だったし、その方が運動性能は高まる。けれどもそれではランボルギーニの旗艦モデルとしてふさわしくない。12気筒にこだわったスタンツァーニはパワートレーンごと“ひっくり返す”という奇策を思いついたのだ。この時点で既に将来の4WD化も見据えた構造を決定したというから、もう一人の天才というにふさわしい。
 大きなエンジンはリアアクスルの前に鎮座、キャビンにミッションケースが出っ張り、ドライブシャフトで折り返す。ガンディーニはそんなスタンツァーニの奇策、LPレイアウトをベースにオリジナルデザインを描いた。十分な乗員2名用のキャビンスペースも確保しなければならない。必然的にそのスタイルは短くそして平らになる。カウンタックの象徴というべきシザードアもまた、「そうでなければ乗り降りできない」という必然のアイテムであった。
 スタンツァーニの生み出したLPレイアウトこそ、カウンタックの正しき血統である。だからこそ、同じレイアウトを踏襲した後々のモデル、ディアブロ、ムルシエラゴ、アヴェンタドールもまた、呼び名こそ変えてきたものの本質的には“カウンタック”であった。RRを踏襲するポルシェ911のように。
 50周年を記念して新たなカウンタックを企画する際に、サイズやデザインだけを考えたならV10エンジンを積んだウラカンをベースにすることもできたはずだ。けれどもそれこそ“クンタッチ”ではなくなる。どれほどガンディーニデザインに迫っていようとも、はたまた優れていようとも、ウラカンベースではもはやクンタッチとは言えない。なぜならそこにオリジナルカウンタックからの血統がエンブレム以外には見当たらなくなってしまうからだ。
 開発陣もまた分かっていた。カウンタックをカウンタックたらしめているのはスタンツァーニのLPレイアウトであると。だから最新作である(LPレイアウトの)シアンをベースに50周年のオマージュを作り上げた。そこには守るべき由緒正しき血統があった。カウンタック以降、受け継がれてきたLPレイアウトである。



photo:小林邦寿、text:西川 淳

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