GT‐Rとの対決とそして| 「ロータリーの語り部」松浦國夫さん、創成期のレーシング活動を振り返る Vol.3

「ロータリーの語り部」松浦國夫さん、創成期のレーシング活動を振り返る Vol.3

       
東洋工業(現・マツダ)に入社以来、ロータリーエンジンひと筋、それもほぼレーシングロータリーの開発に専従してきた松浦國夫さんに、活動初期の話を2017年にうかがった。そのお話を4話構成でお伝えする。ロータリーエンジンの開発が紆余曲折の連続だったことはよく知られるとおりで、モーターレーシングは性能の極限領域を確かめる目的で積極的に活用された。しかし、すべてが未知のエンジン。通常では思いもよらぬことが、当たり前のように起きていたという。

【 「ロータリーの語り部」松浦國夫さん、創成期のレーシング活動を振り返る Vol.3】

【2】から続く

 ニュルブルクリンク、スパと海外レースを推し進めてきたマツダが、国内レースに目を向けたのは1969年。一見急造に見えるオーバーフェンダー付きファミリアを11月の全日本鈴鹿自動車レース大会に投入。スパ仕様車がベースとなったため、ホモロゲーションの関係からツーリングカーではなくRクラス車両として参戦。片山義美、武智俊憲の2人が1、2フィニッシュで同レースを制していた。

 そして1970年5月のJAFグランプリに「ロータリー部隊」としてGT‐Rと初手合わせ。片山、武智、岡本、寺田らの態勢で臨み、武智が黒沢、都平のワークスGT‐R2台に次ぐ3位に食い込んだ。さらに絶対スピードの目安となる予選タイムは、黒沢の2分7秒47に対し、片山が2分8秒38とその差はほぼ1秒。日産勢にとっては大きな脅威となったはずだ。

>>【画像11枚】787B用R26B型4ローターエンジンなど

「日本グランプリでのGT‐Rとの走り比べは手応えがありました。クルマは軽いし、パワーもそこそこあったからこの先何とか戦えそうだ、という感触ですね」

 GT‐RのS20型はR380のGR8型に準じたエンジン。これに対しわずか1000ccに満たないロータリーエンジンが近似したタイムをマークしたことは大きな驚きだ。

「10A型の出力は、一応200ps 以上と発表していましたが、実際にはそれよりもう少し出ていました。デビュー以来ロータリーは、レシプロに対する排気量換算をどうするかで常に論議され、当時は2倍換算が適用されていました。要するに、たとえば10A型の出力を額面どおりに公表すると、それを元にレシプロ車とのタイム比較をされ、必ず新たなハンディを背負わされることになる。自ら好んで高出力であることを示す必要はないんです。だから、出力値は必ず控えめに公表していました(笑)」

 GT‐Rとの戦いは、もちろん出力性能の向上は必要不可欠な要素だったが、乾いた雑巾を絞るような悲壮なものではなく、車両全体の総合性能を引き上げるかたちで進められ、それで優位に立てるようになっていた。

 ワークスGT‐Rが1972年いっぱいで退いたことから、スーパーツーリングはロータリーに一極化されることになる。相手がいなくなったわけである。一方、GTカテゴリーのレースは歴史的にフェアレディの寡占化で展開し、この当時はフェアレディZ以外に事実上、参戦できる車種がなかった。

 そこで、というにはかなり強引な手法だったかもしれないが、富士スーパーツーリングをロータリー対フェアレディZという、ツーリングカー対GTカーの対決としたのである。一見乱暴な構成にも思えるが、スポーツカー企画のボディ/シャシーに2.6/2.8Lエンジンを搭載するフェアレディZとスポーティークーペのサバンナロータリーが互角に走ってしまったのだから、ロータリーエンジンのポテンシャルがいかに優れていたかが理解できようというものだ。

「GT‐Rと競り合っていた時代を見てもらえば分かると思いますが、ロータリーユーザーは意外と多かったんです。理由はひとつ。高度なチューニング技術と素材を必要とするGT‐Rのエンジンに対し、ロータリーはシンプルでパーツ点数も少なく低コストでGT‐Rに比肩する性能が得られたからです。レースを志す若い層の人にとって、費用的にゆとりのある方は別ですが、イニシャルコスト、ランニングコストを低く抑えられるロータリーのメリットは大きかったと思います。若手の育成にかなり貢献することができた、と自負していますよ」



>> 1969年には量販車種のファミリアに車種変更してツーリングカー耐久の伝統、スパ・フランコルシャン24時間レースに参戦。総合5、6位入賞の好成績を残した。





>> 1970年のスパ・フランコルシャン24時間レースに4台のファミリアで臨んだマツダ。だが、想定外のエンジン本体トラブルにより1台がかろうじて5位。衝撃は大きかった。


【4】に続く

初出:ノスタルジックヒーロー 2017年8月号 Vol.182
(記事中の内容は掲載当時のものを主とし、一部加筆したものです)

「ロータリーの語り部」松浦國夫さん、創成期のレーシング活動を振り返る(全4記事)

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【1】【2】から続く

text:KEISHI WATANABE/渡辺圭史 photo:Mazda Motor Corporation/マツダ

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