珍車秘宝館|ホンダS600 / S800 エンジン編【2】今回は、ひとまずブロック編|F1マシンRA272のノウハウを投入。クランクがオイルパンのオイルをたたいたりしない構造

純正はボアφ54.5mm×ストローク65mmで排気量は606ccだが、館長のS600にはCB125用のφ56.5mm(左)が組み込まれ、排気量は650ccになっていた。ただし、圧縮が上がらないため、ハイコンプピストン(右)に組み替えたそうだ。

       

【珍車秘宝館】

「珍車秘宝館」は、国産車や輸入車はもちろん、クルマにまつわる激レア品や珍品、摩訶不思議なパーツなどにもスポットを当てるマニアックなコーナーで、館長の貴重な体験やコレクションなども合わせて紹介していく。

今回は、館長にとって、いろんな意味で驚きの連続となった、ホンダS600/S800のエンジン。
なかなか見ることができないAS285Eの内部とともに、当時のホンダの技術を紹介しよう。

【ホンダ S600 / S800 Vol.2】

【1】から続く

 実は館長、過去にS800、S600を所有していたこともあり、その時にエンジンをバラしたことがあって、驚いた経験があるそうだ。

 「バラして気付いたことがたくさんあるんですが、まあスゴイです。まず、エンジンのオイルパンを外してみたところ、中にもう1枚仕切りがあって、オイルパンとクランクが装着されている空間を、完全に分離させて2階建てになっています。クランクがオイルパンのオイルをたたいたり、つかったりすると、それだけで抵抗になり、オイル潤滑の妨げにもなります。そこをキッチリと分離した構造にしているエンジンは、あまり見たことがありません。それと、これは有名ですが、クランクシャフトは組み立て式で、ニードルローラーベアリングが組み込まれています。通常は、分割式のコンロッドをクランクに組み付けますが、エスの場合は分割したクランクシャフトを組み立てる方式のため、バラすと芯出しが必要になります。この芯出しには大変な技術が必要なので、通常はクランクをバラしません。確か、初期のF1マシンのRA272のV型12気筒もこの方式を採用していたと思います」と興奮気味に語る館長。相当思い入れが強いようだ。

 「ヘッドとブロックがアルミ製のエンジンで、鋳鉄スリーブが採用されています。一般的なスリーブは筒状ですが、シリンダーが膨張するため、ブロックの上面に合わせた一体成型のスリーブが採用されているのがポイントで、素晴らしい発想・技術だと思います。また、エンジン始動時のセルモーターからのクランク駆動が、チェーンになっているのも特徴です。通常は、セルモーターはフライホイール外周のギアで始動するため、セルを回すとギアが駆動する音が聞こえますが、エスの場合はチェーンなのでとても静かなんです」

 この後も、延々とエスに関する話がつきない館長。今回は、ひとまずブロック編として、ヘッドやシャシーまわりの解説は、次号以降にお届けします。

>>【画像11枚】アルミ製のシリンダーブロックも上下2分割で、アンダークランクケースを外すことで、ようやく顔を出すクランクシャフトなど



鋳物スリーブ

以前紹介したアルファロメオのエンジンは、筒状の鋳鉄スリーブだった。ところが、暖まるとシリンダーが伸びることに気付いた本田宗一郎は、鋳鉄スリーブの上部にブロック形状に合わせたツバを一体成型し、シリンダーヘッドとサンドイッチする方式を採用。ブロックが熱膨張してもライナーが躍らない画期的な方式だ。





コンロッドが分割式でないため、シリンダー下部からクランクとコンロッド&ピストンのセットを一気に組み込む。ノーマルのφ54.5mmボアならピストンリングを縮めるための面取りがあるのでそれほど苦労しないが、限界ボアアップされたこのエンジンは、シリンダー下部の面取りがほとんどないため悪戦苦闘。2番3番を先に挿入し、クランクをゆっくり回して1番4番を組むのだが、せっかく入ったトップリングがまた外れるパチッという音が聞こえるたび、「ギャー」となった思い出があるそうです(笑)。





ハイコンプ仕様のピストンを組み込んだ状態。ここまでくるには……。





セルモーターからのクランク駆動がチェーンになっているSシリーズは、始動時のセル音がとても上質で静かなのだ。


初出:ノスタルジックヒーロー 2017年6月号 vol.181
(記事中の内容は掲載当時のものを主とし、一部加筆したものです)

ホンダ S600 / S800(全2記事)

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【1】から続く

photo & text : 珍車秘宝館 館長

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