珍車秘宝館|ホンダS600 / S800 エンジン編【1】F1マシンRA272のノウハウを投入した、精密機械のようなAS285E型エンジン

F1マシンRA272のノウハウを投入した、精密機械のようなAS285E型エンジン

       

【珍車秘宝館】

「珍車秘宝館」は、国産車や輸入車はもちろん、クルマにまつわる激レア品や珍品、摩訶不思議なパーツなどにもスポットを当てるマニアックなコーナーで、館長の貴重な体験やコレクションなども合わせて紹介していく。

今回は、館長にとって、いろんな意味で驚きの連続となった、ホンダS600/S800のエンジン。
なかなか見ることができないAS285Eの内部とともに、当時のホンダの技術を紹介しよう。

【ホンダ S600 / S800 Vol.1】

 ホンダCB750が口火を切った世界のビッグバイクウォーズ。ナナハンを追うように発売されたカワサキ900スーパー4(Z1)に続いて、スズキは1976年にGS750を、ヤマハは1978年にXS1100を発売した。

 この中で、ナンバー1の座を射止めたのはカワサキZ1だった。ナナハンを超える900ccという排気量、頑丈さやハンドリングを含め、特に当時の世界最大市場であるアメリカで「ベストバイク」の確固たる地位を築き上げたのだ。

 ホンダは、当然「打倒カワサキ」に打って出る。しかし、Z1を超えるためにナナハンをスープアップするのではなく、アメリカでの使い勝手に合わせ込んだニューモデルを2機種、投入したのだ。

 一つめは、水平対向4気筒エンジンを搭載するゴールドウイングGL1000。GLは、スポーツバイクというよりも、大陸ツーリングバイクとして大ヒット。そして、スポーツバイクとして打倒Z1を狙ったのが、空冷並列6気筒エンジンを搭載するCBXだった。

 出力向上のために多気筒化するのは、60年代の世界グランプリを席巻したホンダの常套手段。ナナハンも、それまで最強を誇っていたイギリス製2気筒車を打倒するために4気筒エンジンを採用したものだった。そのナナハンと同じ4気筒を積むZ1を倒すためには、さらに多気筒化を——というホンダらしい戦略だった。

 当時のホンダでは、6気筒エンジンとともに4気筒4バルブ1000ccエンジンも計画されたが、カワサキを大きく引き離し、世界最高をアピールするために、ホンダは6気筒プロジェクトを選択する。ナナハンと別ルートで、ホンダが再び世界最速を狙ったのである。


>>【画像11枚】エンジンを降ろしてエンジンスタンドに装着。オイルパンを外すために、上に見えるのがオイルパンで、下側にヘッドがある、天地を逆さまにした状態など



オイルパンは2階建て構造 オイルパンを外すと、通常はクランクシャフトが見えるが、オイルを吸い上げるオイルストレーナーとオイルポンプが見えるのみ。内部も複雑な形状になっている。





クランクシャフトを外すと、通常のエンジンのようにシリンダーが見える。シリンダー前後(写真上下)と3番4番シリンダーの間にある5mm程度の穴が、クランクメインジャーナルを潤滑するためのオイルの通路だ。





組み立て式クランクシャフト エスの特徴となる組み立て式クランクシャフト。コンロッドの大端部が分割式になっていないのが分かる。コンロッド大端部の内部とクランクジャーナル内にニードルベアリングが組み込まれている。そのため、一度バラすと芯出しするのが大変なのだ。


【2】に続く

初出:ノスタルジックヒーロー 2017年6月号 vol.181
(記事中の内容は掲載当時のものを主とし、一部加筆したものです)

ホンダ S600 / S800(全2記事)

関連記事: 珍車秘宝館

関連記事: ホンダ

photo & text : 珍車秘宝館 館長

RECOMMENDED

RELATED

RANKING