21世紀の今も、クラシックカーレースでは主役を演じているパワーユニット! 世界に誇る直列4気筒OHV|日産A型エンジン物語

世界に誇る直列4気筒OHV。

       
初代B10サニーに搭載されて登場した日産A型エンジン。OHV(オーバーヘッドバルブ)のメカニズムを持ち、決してハイパワーではないが、いまなお傑作エンジンとして、よく知られた存在だ。

【日産A型エンジン物語】

 OHVエンジンの傑作として、ユーザーや識者から称賛されているのが、日産の「A型」直列4気筒OHVエンジンである。最初の作品となったA10型エンジンは1966年4月、初代サニー1000に積まれてデビューした。名機ゆえ、A型エンジンはSOHCとDOHCエンジンが主役となった80年代まで生産が続けられてなかぐろいる。21世紀の今も、クラシックカーレースでは主役を演じているパワーユニットだ。

 A10型に始まるA型系列の直列4気筒エンジンは、自動車王国だったイギリスのパワーユニットを手本に誕生した。もっとも強い影響を与えたのは、オースチン社のエンジンである。ご存じのように、日産は1952年12月にイギリスのオースチン社と提携を結び、A40サマーセットサルーンのノックダウン生産を行った。エンジンは1197ccの1G型直列4気筒OHVだ。

 後継のA50ケンブリッジも1955年に横浜市鶴見区の横浜工場から誕生している。1956年5月に完全国産化を実現した記念すべきファミリーカーで、エンジンは1489ccの1H型直列4気筒OHVを搭載した。イギリスの課税法を意識したロングストローク設計のエンジンで、ボアは73mm、ストロークは89mmである。最初はサイドバルブだったが、これをOHV化した。
 群を抜いて高い実用性能が自慢だ。また、日本で初めてトランスファーマシンを設置して生産したことでも知られている。この1H型エンジンをベースに、日産の技術陣(と指導したドナルド・ストーン)が開発したのが988ccのC型直列4気筒OHVだ。

>>【画像5枚】A型の基本となるA10型エンジンや、A10型エンジンを搭載してデビューした、1966年式B10サニー1000デラックスなど

 ウイリス・オーバーランド社を退職したドナルド・ストーンは、ダットサン210型セダンに搭載する4気筒エンジンの開発と量産化を指導するために招聘され、来日した。日産のエンジニアは新規設計を望んだ。だが、ストーンは、オースチン社が設計した1H型エンジンをベースに、これをダウンサイジングして新しいエンジンに生まれ変わらせようと考えたのである。

 既存の1H型エンジンの生産設備を利用することができれば製造コストを大幅に引き下げることが可能だ。また、新規設計のエンジンは耐久性と信頼性に不安が残る。この点に関しても、生産量の多い1H型エンジンをベースにすれば信頼性が高くなるだろう。

 ボアを73mmのままストロークを59mmに詰め、排気量を988ccとしたのがC型エンジンだ。初代ブルーバードに搭載するE型エンジンは、C型のストロークを71mmに延ばして排気量を1189ccに拡大している。この2つのエンジンは「ストーンエンジン」と呼ばれ、歴史に名を残した。310系の初代ブルーバードは空前のヒット作となったが、タフで信頼性の高いストーンエンジンも好調な販売に一役買っていたと言えるだろう。

 C型とE型エンジンは、高い評価を獲得する。だが、最大の弱点は重量とサイズがかさんだことだ。ベースが1H型エンジンだから、軽量化とコンパクト化は難しかった。そこでA型直列4気筒OHVエンジンは、オースチン社の設計哲学を受け継ぎながら軽量かつコンパクト設計としている。そして信頼性を十分に考慮したうえで、新しい技術と構造を盛り込んだ。ちなみにA型エンジンの生産を行ったのは、提携関係にある愛知機械工業だった。

 A型エンジンは、C型やE型と同じように、カムシャフトを使ってプッシュロッドを押し上げ、ロッカーアームを介して燃焼室頭部のバルブへと伝えるOHV方式を採用している。シンプルなメカニズムで、信頼性も高い。だが、高回転になるとバルブの追従性に難があり、振動も出た。そこでシリンダーブロックにあるカムシャフトの位置を高くすることによってプッシュロッドの長さを短く抑え、高回転まで軽やかに回るようにしたのである。
 BMCのミニに積まれている直列4気筒OHVと似た設計だが、FR方式を採用するサニーのA10型やA12型エンジンは縦置きレイアウトだ。また、高回転を苦にしないショートストロークのオーバースクエア設計を特徴としている。ちなみに1970年秋に登場したチェリーに積まれているA10型とA12型エンジンは、横置きレイアウトとした。これはチェリーがFF車だったからだ。トランスミッションをエンジンの下に置く二階建て構造としたが、これはミニとまったく同じである。

 A10型エンジンはボア73mm、ストローク59mmで、排気量は988ccだ。これはC型とまったく同じである。吸・排気系レイアウトはターンフロー(カウンターフロー)、クランクシャフトは3ベアリング支持だった。1970年に登場したA12型エンジンからは5ベアリング支持として、摩耗損失を低減している。A10型のストロークを70mmに延ばしたA12型エンジンの排気量は1171ccだ。OHV方式だが、高回転まで気持ちよく回り、燃費もいい。

 その後もA型エンジンは仲間を増やし続け、50年にわたって第一線で活躍を続けている。いかに優秀なエンジンだったか、分かってもらえるだろう。



A型の基本となるA10型エンジン。排気量は988ccで、56psのパワーを発揮。2:デバイスをつけて排ガス規制をクリアしたA14S型エンジン。1397ccで80psのスペックを持っていた。





デバイスをつけて排ガス規制をクリアしたA14S型エンジン。1397ccで80psのスペックを持っていた。






A10型エンジンを搭載してデビューした、1966年式B10サニー1000デラックス。




日産がノックダウン生産していた、1953年式オースチンA40サマーセットサルーン。






生産の完全国産化を実現した、1959年式オースチンA50ケンブリッジサルーン。


初出:ノスタルジックヒーロー 2016年 6月号 Vol.175(記事中の内容は掲載当時のものを主とし、一部加筆したものです)


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text : HIDEAKI KATAOKA/片岡英明  photo : NISSAN MOTOR CO.,LTD./日産自動車,ISAO YATSUI/谷井 功

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