外観からワゴンとライトバンの違いを見分けるのは困難だった510ワゴン 〜2016〜|1972年式 ダットサン 510 ワゴン Vol.3

調整自在なエアサスペンションをギリギリまで下げてフリーウェイを走るその姿は、「スリーク」という表現がよく似合う。ここまで下げるために工夫したのは、ゼロオフセットのホイールとタイヤが収まるようにしたリアのホイールハウス。リアドアの下の部分をうまく切り貼りして、アーチの形状をわずかに変えて干渉を防いだ。

       
【1972年式 ダットサン 510 ワゴン Vol.3】

【2】から続く

 外観はクルマらしくあって、中身は実用にとびきり便利なワゴン。もともとは「ステーションワゴン」と呼ばれた名前が示すように、アメリカなどで鉄道が普及した時代に駅に着いた旅行者を迎えた送迎車がそのルーツだ。長旅で疲れた旅行者グループを快適に乗せて、併せて旅行かばんも積めるように造られたクルマは独特の形状をしていた。

 時は過ぎクルマが民間に普及すると、このステーションワゴンを模した自家用車が登場する。便利さを理由に、70年代初頭にかけてアメリカで大流行した。そんなワゴンの車体は、メーカー同士が競うように拡大の一途をたどったため、72年のオイルショックを機にブームは急速に下火になった。アメリカに進出していた日本メーカーもこのワゴンブームに挑んだが、ニーズを見通しきれなかった様子は、以前本誌VOL.154で紹介ている。


▶▶▶【画像13枚】極端に車高を下げたため、センタートンネルを高く作り直さなければならなかった。継ぎ足すパネルに屋根に穴を開けた際の廃材を再利用したので、労せずしてボディカラーと同一色となったセンタートンネルなど


 一方、日本には「ライトバン」という独自の車体形状が存在していた。戦後復興期に活躍したオート三輪や軽トラックといったオープンデッキの貨物車を元に、天候対策のため屋根を取り付けるという発想でできたのがライトバン。従って貨物車がルーツである。

 そうした背景を受けて、70年代の日本車のバリエーションに「ワゴン」と「ライトバン」が用意されている車種があった。510系ブルーバードもその1つ。アメリカで流行する高級感あるワゴンと、日本のクルマ発展に基づくライトバンの両方に対応するためだったが、同時に製造を容易にするため共通の車体デザインが用いられた。そのため外観からワゴンとライトバンの違いを見分けるのは困難だった。




シェイファーさんの大の自慢のエア式サスペンション。ユニバーサルエアロスポーツ製のエアバッグがストラットの上部に取り付けられているのが見える。車軸懸架式のリアには可能な限り短いショックを採用、リーフスプリングのアーチを小さくした上で細部を改良し、結果的には5インチ(13cm)以上車高を下げることができた。


【4】に続く

初出:ノスタルジックヒーロー 2016年 2月号 vol.173(記事中の内容は掲載当時のものを主とし、一部加筆したものです)

1972年式 ダットサン 510 ワゴン(全4記事)

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【2】から続く

text & photo:HISASHI MASUI/増井久志 photo support:MILES SCHAFFER/マイルス・シェイファー

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