今だから語れる80日本カー・オブ・ザ・イヤー 第17回COTY受賞車 ギャラン / レグナム

1966年は、政治でも自動車の分野でも大きな変動があった年だ。松の内の1月5日、村山富市首相が退陣を表明し、その1週間後には橋本龍太郎内閣が発足している。この年、民主党と社民党も誕生した。スポーツ界のハイライトは、7月にアトランタでオリンピックが開催されたことだ。

 東京ビッグサイトの開場とりんかい高速鉄道の開業も96年の出来事である。渡辺淳一の「失楽園」がベストセラーになり、安室奈美恵や今井美樹の歌がヒットしたのも96年だった。
 自動車の世界にも新しい波が押し寄せている。多様化するユーザーニーズに応えるため、各メーカーは新しい価値観を持つクルマを模索した。

 80年代まで隆盛を極めたセダンやスタイリッシュな2ドアクーペは、脇役に追いやられている。オートキャンプやサーフィン、スノーボードなどのアウトドアスポーツに興じる人が増えたためだ。走りのよさよりも実用性の高さに注目する人が増えた。こだわったのは、キャビンスペースや快適な空間、使い勝手のよさだ。

 また、安全性に対する意識も高まっている。それまでは快適装備を重視していたが、90年代半ばからは安全性に目を向ける人が増えてきた。やっとデュアルSRSエアバッグや4輪アンチロックブレーキ(ABS)などの安全装備が認知されるようになったのだ。

 トヨタは衝突安全ボディの「GOA」をいち早く採用し、ライバルの一歩前に出ている。この時期は安全に関してメーカーの温度差は大きく、ポーズだけのメーカーも多かった。実際の衝突シーンを想定したオフセットクラッシュに対応したクルマは、まだ少数だ。見せかけの安全性を主張するメーカーも少なくなかったのである。

 95年はクロスオーバーSUVが大ブレイク。これが世界的ブームの先駆けとなった。96年、主役に躍り出たのは、使い勝手のいい乗用車ベースのミニバンと高効率パッケージのハイトワゴンだ。

 ミニバンの筆頭は、ホンダのステップワゴンとトヨタのイプサムである。ステップワゴンは、小型車枠の中で最大級の広さにこだわった容積追求型のFFミニバンだ。3列シートの8人乗りが主役だが、2列シートの5人乗り仕様も用意された。

 パワーユニットはCR-Vから譲り受けた2L直列4気筒のB20B型DOHCである。足踏み式パーキングブレーキの採用により、サイドウォークスルーも実現した。

 イプサムは、ステーションワゴンの軽快な走りとミニバンのユーティリティーを実現した新世代のファミリーカーだ。セダンから乗り換えても違和感のないミニバンで、軽快な走りを披露した。エンジンは2Lの直列4気筒ハイメカツインカムで、後にディーゼルも加わる。最先端の安全性能もセールスポイントのひとつだった。

 さらに、コンパクトカーにもハイトワゴン旋風が吹き荒れ、これが主流になったのも96年だ。

 マツダは2BOXのハッチバックを発展進化させたデミオを、ホンダはシティの後継となるロゴを送り込んでいる。デミオはコンパクト・ファミリーカー、レビューのシャシーを用いているが、全高を1535㎜に引き上げて使い勝手のいいマルチパーパスカーに仕立てた。エンジンは1.3Lと1.5Lの直列4気筒SOHCだ。衝撃吸収高強度ボディを採用するなど、安全装備も充実していた。4WDを設定しないなど、割り切ったところがあるが、マツダの救世主となっている。

 また、ダイハツは、ひとクラスのキャビンスペースを誇るパイザーを送り出した。シャレードを発展させたマルチパーパスカーで、広くて快適なキャビンと利便性の高さを訴えた。エンジンは1.5Lの直列4気筒だ。
 ステーションワゴンも負けていない。その筆頭が三菱のレグナムである。ギャランは10月にモデルチェンジを断行し、ウエッジシェイプのスポーティなデザインに生まれ変わった。この8代目ギャランのワゴンとして開発されたのがレグナムだ。3ナンバーのワイドボディを採用し、押しが強い。

 注目はパワーユニットで、筒内直接噴射(直噴)のGDIエンジンを主役の座に据えている。直噴のガソリンエンジンは50年代にベンツが採用しているが、燃費まで意識した量産型の直噴ガソリンエンジンは初の試みだった。GDIエンジンは1.8Lの排気量だが、2L並みの動力性能とディーゼルを上回る優れた燃費を売り物にする。

 また、直列6気筒エンジンを積むフルサイズワゴンも誕生した。スカイラインのメカニズムを採用し、痛快な走りを実現した日産ステージアだ。

 正統派のセダンは、日本カー・オブ・ザ・イヤー(COTY)の10ベストカーに3台が残っている。トヨタのマーク2/チェイサー/クレスタとコロナの新しい形を表現したプレミオ、そして日産の3代目シーマだ。

 これらの中から日本カー・オブ・ザ・イヤーの称号を手にしたのは三菱のギャランとレグナムである。進歩的なGDIエンジンに代表される洗練されたパワーユニットと気持ちいい走り、優れた快適性能などが評価され、得票数でライバルを上回った。また、特別賞を勝ち取ったのはマツダのデミオだ。コンパクトサイズだが、背を高くしたハイトパッケージにより快適なキャビンと使いやすい荷室を実現している。

 一方、輸入車は、コンパクト・ファミリーカーからオープンのスポーツカーまで出そろった。主役はドイツ車だ。VWポロ、ポルシェ・ボクスター、BMW5シリーズ、BMWZ3、アウディA3、オペル・ベクトラ、そしてメルセデス・ベンツの新感覚スポーツカー、SLKと、7台を占めている。フランス勢はプジョー406とルノーのメガーヌ、イギリスはジャガーXK8が名乗りをあげた。

 その中からクーペの快適性とオープンカーの快適性を高次元で両立させたヴァリオルーフを持つメルセデス・ベンツSLKがインポート・カー・オブ・ザ・イヤーに輝いている。



大型化し丸みを帯びた先代から一転、筋肉質なフォルムへと変身し、スポーツ性をアピール。


先進のナビゲーション機能に加えて、エアコンやオーディオシステムの作動状態など、多彩な情報を表示する5インチブラウン管画面を装備したMMCS(三菱マルチコミュニケーションシステム)と木目調パネルを全車に標準装備。



ミッションは、MT感覚での操作も可能な4ATのINVECS-Ⅱを搭載。


グレー/ライトグレー2トーンのシート表皮を使ったインテリアは、セダンらしい落ち着きとスポーツ性を表現。本革シート仕様もオプションで選択可能だ。


究極の高効率を求めて登場した筒内噴射ガソリンエンジンのGDIを世界初搭載。ガソリンをシリンダー内に直接噴射する、いわゆる直噴エンジンで、三菱がいち早く実用化した。



フルタイム4WD+V型6気筒2.5ℓターボのVR-4はレグナムにもラインナップされた。



全長はセダンと同一となる4620㎜で、バランスのとれたサイズ。



デミオは、ステーションワゴンやSUV人気に続き巻き起こったミニバンブームに合わせて登場したコンパクトミニバン。全高を立体駐車場にも入る1535㎜に設定したこともあり、使い勝手に優れた小型ミニバンとして人気を集めた。コンパクトミニバンの先駆者的な1台。



前年のMG-Fに続いて、オープンスポーツカーのメルセデス・ベンツSLKがインポートCOTYを受賞。スイッチ1つで、クーペボディに変身するヴァリオルーフを標準装備。2.2Lの直列4気筒DOHC+スーパーチャージャーと、3.2LのV型6気筒を搭載。


掲載:ハチマルヒーロー 2014年 11月号 vol.27(記事中の内容はすべて掲載当時のものです)

TEXT : HIDEAKI KATAOKA/片岡英明

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