NISMOの設立、VG30を導入した中期の日産【3】星野、長谷見がマーチ、柳田がローラを選択|国内モータースポーツの隆盛|グループCカー時代の到来

1986年WEC富士戦から。後方はマツダ757とシルクカットジャガーXJR-6。ポルシェと対等に走ろうとすると依然として燃費や耐久性で問題が生じていた。サイドラジエターとなったR86V(マーチ86G)は85Gの空力性能進化仕様と見てよかった。

       
いざフタを開けてみたらポルシェがあまりにも強すぎた。マシン性能が不十分であり態勢も整っていない。
JSPCに臨んだ日産はすべてを見直さなければならない状況に追い込まれていた。
NISMOの設立、VG30型ターボエンジンの導入と歩を進めてみたのだが……。

【 NISMOの設立、VG30を導入した中期の日産 Vol.3】

【2】から続く

 VG30型を搭載したシャシーはマーチとローラ。LZ型の時代はLM製シャシーも使ったが、この両シャシーはVG型を載せてIMSAで実績を残していただけに、妥当というか当然の選択肢だった。星野、長谷見がマーチ、柳田がローラを選択、1985年シーズンから順次走り始めていた。

 ただ、グループCとIMSAは似て非なる仕様となり、エンジン性能に関して言えば、ターボの数や燃料量の制限などが異なり、IMSA仕様そのままでは不利な状況だったのである。グループC用にアジャストし直さなければならなかったのだが、この作業が思いのほか難航した。

 記録上は、1985年のWEC富士6時間で星野組が優勝を果たしているが、大雨のため大半がペースカーラップとなりレースは大幅短縮。走行が危険と判断したワークスポルシェほか遠征組は軒並み棄権。内容面は、決して手放しで喜べるものではなかった。


>>【画像14枚】1986年R380以来の念願だったル・マン参戦を果たした日産は、R86V(マーチ86G星野組)とR85V(マーチ85G長谷見組)を持ち込み、長谷見組(写真)が総合16位で完走。完走率が40%前後の時代だったから、完走のハードルがかなり高かったことを思い知らされる


 それでも、VG型はLZ型と比べるとスピードが大幅に向上し、デビュー年の1985年、早くも第4戦鈴鹿1000kmで星野一義、最終戦富士500kmで長谷見昌弘がポールポジションを獲得する走りを見せていた。

 決勝でポルシェ勢に先を行かれることは分かっていたが、せめて予選だけでも、という日産の看板を背負った星野、長谷見の立場をうかがわせる一例だが、LZ型では逆立ちしても届かなかったポルシェのスピードに、とりあえず並ぶことができたというのは、ひとつの成果と言えた。

 VG30型を積む日産Cカーは、1985年1シーズンの実戦経験を経て、1986年6月のル・マン24時間レースに参戦を表明。実際には、実績のないチームがル・マン参戦を試みる場合、主催者との時間をかけた交渉が必要不可欠なため、VG型を実戦投入した1985年初頭の段階で、1986年のル・マン参戦は既定事項となっていたのだろう。

 そのル・マン、R86V(星野/鈴木亜久里/森本晃生)とR85V(長谷見/ジェームズ・ウィーバー/和田孝夫)の2台による参戦となり、星野組がミッショントラブルで5時間目に脱落したものの、24時間完走を目標にペースを落としに落として走った長谷見組は、それでもトラブルに見舞われトップから1100km以上の遅れとなりながら16位完走に成功。ちなみにVG30型搭載車によるル・マン参戦は、プライベーターまで含めると1989年まで続いたが、この時の長谷見組が最初で最後の完走実績となっていた。

 トヨタが2L級4気筒エンジンでJSPC3勝を挙げたのとは好対照に、VG30型搭載車は1度も勝つことができなかった。こうしたことが、日産にCカーエンジンの自社開発を踏み切らせることになるのだが、ここでも一度つまづくことになる。







> メーカー系のチームがプライベーターを目標とする。なんとも本末転倒した話だが、市販レーシングカーのポルシェ956/962Cはそれほど速くて強かった。常勝アドバンポルシェ、日産(R86V)とトヨタ(トムス85C)を従えて。(1986年富士500マイル)





> 1987年JSPC最終戦となる富士500kmを走るパーソンズR87V(和田孝夫/アンダース・オロフソン)。スペシャルVG30型を搭載した和田は、予選でCカーレコードとなる1分14秒075を記録。決勝もポルシェ3台に続く4位と国産勢の最上位だった。




初出:ハチマルヒーロー 2016年 1月号 vol.33
国内モータースポーツの隆盛〈第7回〉|グループCカー時代の到来 その3
(記事中の内容は掲載当時のものを主とし、一部加筆したものです)

NISMOの設立、VG30を導入した中期の日産(全3記事)

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【1】【2】から続く

text & photo : AKIHIKO OUCHI / 大内明彦

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