1オーナー車との出合い。「オリジナルであること」に徹底的にこだわるオーナー|1969年式 ダットサン 510

オーナーが10年間勤めているオークランド市内のジャガーショップ「ビンテージオートサービス」。ショップオーナー(右)はクラシック英国車のレストア業界では名の通った人だ。「クラシックカーには個性やクラフトマンシップを感じる。ここで働くようになってからそれを学ぶことができて旧車をリスペクトするようになりました」とオーナー。

       
今回紹介するダットサン510のオーナーは、クラシック・ジャガーのプロフェッショナルメカニックである女性。以前はドリフトに魅せられて、そのエキサイティングな世界にどっぷりと浸っていたが、ある日、名も知らない古いクルマを見かけ、そのルックスにあこがれた。その後、縁があって現在の愛車と出合うのだが、この出合いがオーナーのクルマと向き合う生活にも大きな影響を与えることになったのだ。


【1969年式 ダットサン 510 Vol.4】

【3】から続く

 ドリフト走行に傾倒していたオーナー、改造や調整作業は自宅のドライブウェイで自ら行っていた。その様子をいつも見ていた人がいた。それがクラッシックジャガーのショップを経営するスティーブ・ゴードンさん。
「3歳のときに近所に引っ越してきたころから彼女のことはよく知ってるよ。うちで働き始めてもう10年にもなるかね。仕事中の彼女はいつも沈着冷静。忙しくてこっちが発狂しそうになるような時でもね。助かってるよ」
 大学生だったオーナーは腕を見込まれ、手伝いがてらゴードンさんのショップで働き始めた。こうしてクラシックカーの世界へと入っていった。

 それは今から3年前の出来事。トライアンフTR5をショップへ持ち込んできた客が、ダットサン510を持っていると言ったのを耳にした。ファースト(1人目)オーナーで、オリジナル状態の510。車庫に入れたまま時々動かすだけらしい。これは良い個体かもしれないと感じたオーナーは、クルマの色も何の詳細も知らないまま、譲ってほしいと意思を伝えた。そしてオーナーが手放す気になるまでただ黙って待ち続けた。1年の時がたち、オーナーの気が変わったのは2014年1月のこと。ついに目の前に姿を現した510に座ってみた途端、得も言われぬ幸せな気分に襲われたと言う。

「私にとって初めてのクラシックカー、ワンオーナーの完全なオリジナルで、ヒストリーと思い出の記録がたっぷり。程度も良好。自分の1台が欲しいと思っていたのは、まさにこれなんです。こんな個体が見つかるなんて本当にラッキーでした。クルマのほうが私を見つけてくれた、って思うくらい」


>>【画像14枚】初期型ではベンチシートだった前席は1969年式からセパレートシートになり、併せてコラムシフトからフロアシフトに変更になったコックピットなど

 ドリフトが一段落してもオーナーのアクティブさは収まらない。
「次はバイクでサーキットに戻りたい」
 そう願って、ヤマハR600を駆って峠へ出かけていく。

 1人の個人の内面にも、多様な興味と価値観が宿っている。白煙を上げてドリフトに興じるもよし、古びた旧車でのんびりと走るのもまた一興。老若男女は関係なし。自分のやりたいことを制限せず公私にわたってモーターライフを満喫しているオーナー。言葉には出さずとも、好きならそれでいいじゃないか、と語っているようだった。





この個体が初登録されたのは東海岸のニューヨーク州で、その後ファーストオーナーの引っ越しに伴ってアメリカ国内を転々とし、1985年にカリフォルニア州で登録され現在に至っている。ナンバープレートのデザインは80年代にオプションで設定されていたもので、なかなかのレアもの。小さな丸いリアのサイドマーカーも1969年式北米仕様の特徴。テールランプの形状が一般的な仕様とは微妙に異なるとオーナーは説明したが、その経緯は不明だそうだ。
 


初出:ノスタルジックヒーロー 2016年 6月号 Vol.175(記事中の内容は掲載当時のものを主とし、一部加筆したものです)

1969年式 ダットサン 510(全4記事)

関連記事: ニッポン旧車の楽しみ方

関連記事: ブルーバード


【1】【2】【3】から続く

text & photo:HISASHI MASUI/増井久志

RECOMMENDED

RELATED

RANKING