数奇な運命を辿り、2019年に展示された「レーザー」。そこに至るエピソードとは?|1971年式 ミケロッティ・レーザー【3】

いかにも70年代のコンセプトカーらしい、全面モケット張りのインテリア。少々角ばった楕円型という個性的なデザインのステアリングホイールは、製作された当時からのオリジナル。その一方でアルミ削り出しのシフトノブは、ノンオリジナルと思われる。


第11回ノスタルジック2デイズ2019に特別展示された2台のストゥディオ・ミケロッティ製コンセプトカー。中でも、2シータースポーツカーの「レーザー」は、日本国内で数奇な運命をたどった1台であった。

【内田盾男さんデザインで製作された1台きりのデザインスタディ 1971年式 ミケロッティ・レーザー vol.3】

この博物館収蔵時代のレーザーは、基本的には製作された当初の姿のままだったが、唯一ボディカラーのみは、それまでのゴールドメタリックから、シルバーメタリックに変更されていた。 ところが95年をもってスポーツカー博物館は閉館。レーザーもひっそりと外部に放出されてしまう。

その次にレーザーがメディアに登場したのは、関西のさる輸入クラシックカー専門店の雑誌広告。時代は前世紀末頃のことである。いかなる経緯を持ってこのショップに譲渡されたのかは今となっては不明なのだが、この時期に何らかの事情で車検取得・ナンバー登録が行われたことは、松田コレクション時代の古い写真、および現オーナーの和田さんから伺った「購入時には既に国内登録されていた」という証言から導き出された結論である。

現在のレーザーには、フロントに大きなエアダムスカートと、それに連なるかたちのオーバーフェンダーが取り付けられているが、これは71年に製作されて以来のオリジナル状態では、前輪の大部分がボディ外に露出してしまい、日本の保安基準には適応できなかったから……、と思われる。

ところで2019年2月の特別展示には、筆者自身も少なからず関与していたことを、誇りをもってお話ししたい。

もともとの始まりは昨年11月。「ノスタルジック2デイズ」のオーガナイザーでもあるノスタルジックヒーロー編集長から、ちょうど千葉県松戸市の「昭和の杜博物館」で行われていたミザールの取材を見学に来ないか? というお誘いを受けたことだった。実はミザールについては、長らく行方不明と勝手に思い込んでいた筆者にとって、まずは見られたこと自体が感動的。そしてその際に脳裏に閃いたのが、同じく日本国内に長らく生息している姉妹車、レーザーと対面させてみたいという、カーマニアならではの思いつきであった。

レーザーの現オーナーは、筆者が長年お世話になっている「R-R/ベントレー・オーナーズ・クラブ・オブ・ジャパン」和田篤泰会長。10年前に開催された「第2回東京コンクール・デレガンス」に、頼み込んで出品していただいたこともある。そこで、再び和田会長に相談を持ち掛けた一方で、ノスタルジックヒーロー編集部から「昭和の杜博物館」の吉岡光男館長にミザールの出展をオファーしたところ快く承諾をいただき、特別展示に至ったのだ

もとはと言えば、筆者の妄想にも近い思いつき。それを大舞台で実現してくれたノスタルジックヒーロー編集長と和田会長。そして、この歴史的展示を見ることなく、今年1月に急逝されてしまった「昭和の杜博物館」吉岡館長にも、心からの感謝の気持ちをお伝えしたいのである。

【画像15枚】紆余曲折が重なって、日本に現存していた幻のミケロッティ・コンセプト。ステアリングは実際に操舵すると、ミッドシップとは思えないようなネットリと重いフィールを示す。カーナビが取り付けられているのは、現オーナーが実際に日本の路上を走らせてきた、一つのあかしとも言えるだろう


>>スタイリッシュなモケット張りシートは、ソフトで座り心地はよいが、ホールド性はお世辞にも良好とは言えない。これもまた、コンセプトカーゆえだろう。


>>コックピット直後に搭載されるエンジンは、マトラM530と同じくドイツ・フォード・タウナス15M用の1.7L60度V型4気筒OHV。スペック上の数値では78psに過ぎないが、実際の走りは、なかなかトルクフルなものであった。


>>驚くほどに高いサイドシル内部には、フロントグリルやヘッドライト内側から取り入れたフレッシュエアのためのチューブが通され、キャビンやエンジンルームへの換気を図る。しかし、このサイドシルは実用的とは言えず、後年ミケロッティの監修で開発されたマトラの生産車「バゲーラ」では、通常のドアとされた。





和田 篤泰さん
ロールス・ロイス/ベントレー・オーナーズ・クラブ・オブ・ジャパン会長を長らく務め、一番のお気に入り、1910年式のR-Rシルバーゴーストとともに、国内外のイベントに参加する、アクティブなエンスージアスト。




1971年式 ミケロッティ・レーザー

●全長×全幅×全高(mm) 4220×未公表×1080
●ホイールベース(mm) 2560
●トレッド前/後(mm) 未公表
●車両重量(㎏) 未公表
●ボア&ストローク(mm) 90.0×66.8
●エンジン種類 60度V型4気筒OHV
●総排気量(cc) 1699
●最高出力(ps/rpm) 78/5000
●最大トルク(kg-m/rpm) 13.46/2800
●最高速(km/h) 未公表
●トランスミッション 4MT


【1】【2】から続く


初出:ノスタルジックヒーロー2019年6月号 Vol.193
(記事中の内容は掲載当時のものを主とし、一部加筆したものです)

1971年式 ミケロッティ・レーザー(全3記事)

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text: Hiromi Takeda/武田公実 photo: Isao Yatsui/谷井 功

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