変わらないために、変えていく。 トップ・ブランドの苦悩。 |BBS_STORY_02

BBS_STORY_02 変わらないために、変えていく。 トップ・ブランドの苦悩。

       
BBSホイールは常に定番にして最高峰だった。
誰もが皆、絶対的王者「BBS」を前にして、それとは違う、自分たちの道を模索してきた。
定番がいるからこそ個性が生まれる。
それがアフターホイール進化の、ひとつの歴史だった。

そんなBBSが、リ・ブランディングをするという。
BBSはなぜブランディングにメスを入れるのか。
何を変え、そして何を変えないのか。
今、まさに生まれ変わろうとしているBBS。
彼らの苦悩と模索、近未来のBBSに迫る。


 今やすっかり市民権を得たeスポーツの中で、モータースポーツ界の筆頭に挙げられるのがグランツーリスモ・チャンピオンシップ・ワールドシリーズだ。先日のFIA GTチャンピオンシップ2021シリーズのラウンド1を観ると、そこには見慣れたロゴがあった。それが「BBS」である。今年からBBSジャパンが同シリーズの公式パートナーになったのだという。


BBSジャパンは今年から「PlayStation4」用のソフトウェア「グランツーリスモSPORT」が展開する「FIA GTチャンピオンシップ2021」の公式パートナーになった。これはFIAと「グランツーリスモ」が提案する新しい形のヴァーチャル型モータースポーツ。若い世代を中心とした広い層にBBSホイールを知ってもらうための取り組みの一環だ。


 意外だった。BBSは名実ともに最高峰のホイールメーカーとして、いつの時代も我々にとって憧れの的である。あらゆる技術と伝統を最大限にリスペクトしたうえで“アナログの極み”を貫くBBS製鍛造ホイールが、今さらヴァーチャルの世界でその存在感を訴えることにどのような意味があるのか。 「我々が持つ技術と、そこから生み出される製品は、世界最高峰であるという自負があります。半世紀かけて培ってきた歴史や実績もある。しかし、我々を評価してくださり、製品を購入していただく方々の年齢層は日増しに高くなっています。ありていに言えば、若年層に知られていない。我々はそこに、強烈な危機感を覚えました」

 BBSジャパンの執行役員 ブランドマネジメント責任者を務める田中康博氏は言う。厳格な組織を通じた大規模な市場調査の結果や、または現場から彼らの耳に届く実体験の結果として、「40代以上の多くはBBSに憧れている」と再確認していた。しかし、若年層はその意識が薄い。いや、憧れるばかりか、BBSに対する認知度すら低かったのだ。そこで彼らは「買える、買えない」ではなく、若年層にまずは知ってもらいたかったという。その技術力と製品を理解し、もしできるのならばいつかは履いてほしい。そういう布教活動をしなければ、今は良くても、数十年というスパンでの企業としての未来を描くことなどできない、と。

 カタログのキャッチコピーには、こんな言葉があった。「言葉を超えて、伝わるもの」と。それは紛れもなくBBSジャパンの活動と、BBS製ホイールを象徴する秀逸な表現だと思う。しかし、彼らはこう思ったのだ。これからの時代、「言葉を超えて、伝わるもの」を「言葉にして、伝えていかなければ未来はない」と。
「BBSらしさって何だろう――。と、ずっと自問自答してきました。我々はブランドの強さに、そして開発陣の技術力に、甘えすぎていたのかもしれない」
 冒頭のグランツーリスモとのパートナーシップ締結は、そのひとつの回答だった。話はそれだけにとどまらない。BBSの芯にあるものを考えたとき、そこにはリアルなモータースポーツが思い浮かぶ。BBSは今一度、その活動にも注目したという。世界最高峰のモータースポーツカテゴリーへの供給は、昔も今も変わらず続けている。近年で言えば、NASCARへの独占供給が始ろうとしていたり、またはSUPER GTでのチームサポートも続けている。ニュル24時間ではSTIの挑戦をずっと支えてきた。 「ホイールを供給して終わり、ではない。もっと彼らとの理解度を高める必要があると思いました。なおかつもっと下のカテゴリーへ裾野を広げなければならない。それがプロであれアマチュアであれ、BBSはずっとモータースポーツに寄り添い、そして我々は育てていただいている。その認識を、あらためて持つ必要があると考えました」


BBS製鍛造ホイールは、F1を筆頭として最高峰のモータースポーツカテゴリーに積極的に投入される。近年の一例としてNASCARがある。2022年からNASCARはニューマシン「NEXT Gen Car」へと移行し、5ホールの15インチスチールホイールに代わりセンターロック18インチアルミホイールとなるが、これはすべてBBSジャパンが供給する。


 世界中に数多あるモータースポーツで勝つというのはBBSの原点であって、それは今もなお不変だ。そこに没頭することは、結果として市販品の品質や性能を向上させることにもつながる。その上で彼らは、機能一辺倒ではない新たな価値にも挑戦する。 「たとえば新製品を企画するとして、そのデザインをベテランのエンジニアが描けば、自ずとBBSらしいホイールになります。それは機能を追い求めた究極の姿カタチ。しかし我々はあえて若いデザイナーを投入するなどして、柔軟な考え方を持った新しい感性を融合させようとしています」

 エンジニアリングの理想像はひとつしかない。定められたレギュレーションの中で究極的な速さを追い求めたF1マシンは、だいたい似たような形状となるのがその証拠だ。しかし、ことストリート向けアフターホイールとなれば、そこに終始してしまえば金太郎飴のようにすべて同じものとなってしまう。だからこそ、新たなBBSを描くためのデザイナーを投入した。聞けば主軸はまだ20代の女性で、日々、偉大なる伝統技法に押しつぶされそうになりながらも、己の個性を訴えているという。

「メッシュパターンと言われてきたクロススポークは、我々の主流だと思います。構造的に見ても理に叶っていて、その考え方は昔も今も変わりません。しかし、そこに固執していては未来はない。伝統を守りながらも、こだわり過ぎてはならない。自由な発想をリスペクトしながら、かつ我々が長きにわたって培ってきたエンジニアリング側からの理想像とを融合させた、新時代のBBSホイールを模索しています」
 と、聞くと期待に胸が膨らむ。先に述べた新しいユーザーを取り込むコミュニケーション手法から、モータースポーツへの取り組み、そして肝心かなめの製品づくり。すべてにおいて、BBSは変わろうとしていた。それは一朝一夕にできるものではない。しかし、その春の息吹のような新しい潮流は、これから少しずつでも世の中に訴えられるはずだ。 「我々が守り続けてきたもの。クロススポークに象徴される設計技術に始まり、それを型鍛造製法で具現すること。時に優れた切削加工や塗装技術が、製品力を高めることになるでしょう。そうした伝統を活かして、次のステージへ立ちたい」

 それは昨今のモビリティーの潮流とも一致する。今やスポーツカー専売ブランドであっても、そのブランドをひっさげたSUVが世に提案され、しかもヒットする時代だ。そのSUVが支持される理由として、いずれもその芯にはブランドごとのアイデンティティーが潜んでいるからだろう。伝統を守り続け、それを訴えることはブランディングとして大切なことだが、そこに立ち止まっていては未来がない。同じようなことを、BBSはやろうとしているのだと思う。
「今までBBSはスポーツカーやセダンなどに似合うような、スポーティーなイメージで括られてきました。今後は世界的に主流となったSUVカテゴリーや、来るべきEV時代に向けても積極的にBBS製ホイールをマッチングさせるべきだと考えています。SUVというのは高重量であり、ハイブリッドやEVなんてさらに重くなる。なのに、ひと昔前のスーパーカーのような出力性能ばかり。と、ホイールにとっては厳しい条件ばかりが並ぶのなら、だからこそ我々の技術が生かされるのだと思います」

 昨今、若者に限らずこの一般社会においてクルマ離れが叫ばれている。メルセデス・ベンツは「CASE(ケース)」と謳って、コネクテッド、自動運転、シェアリングとサービス、EVを推進すると発表した。その先にはEVによる究極の自動運転化社会が待っている。といってもスポーツブランドのメルセデスAMGは今でも継続的に活動して、あらゆるアプローチでモビリティーの楽しさを訴え続けている。

 BBSもまた同じ、共存共栄の思想なのだろう。デザインと設計、そしてマッチング、そうした面で新しい時代を見据えた展開を考えている。BBSは昨今のモビリティーのあり方、その動向だけを捉えて、クルマが単なる白物家電化したり、公共交通機関のような存在になると悲観などしてはいなかった。クルマの性能を確実に向上させ、より個性化を図り、カーライフを豊かにしてくれるような存在が必ずや必要とされる。そして「BBSはそういう存在であるべきだ」と。AMGだってバブル時代に羨望の眼差しを向けられた黒塗りコンプリートカーのままだったら、今の時代、もはや淘汰されていたのかもしれない。

「新生BBSは、もう始まっています。グランツーリスモとのコラボを筆頭に、全国各地のイベントへの参加など、BBSを新たに知っていただくような取り組みを含めて、ユーザーとのコミュニケーションを深めていきたい。同時に新開発も着々と進めています。製品開発はすぐに公開できる類ではありませんが、少なくとも今後1~2年の間に、“何か変わったBBS”を感じていただけるのではないかと思っています」

 BBSは長きにわたって最高峰にいた。誰もが皆、絶対的王者であるBBSを前にして、正攻法でその高い山を越えようとしたか、あるいはそれとは異なる自分たちの道を探してきた。定番がいるからこそ、個性が生まれていく。それがアフターホイールにおける、ひとつの歴史だった。

 絶対的王者に挑むことが難しいのは当然だ。しかしそれと同時に、王者自身たるBBSも安泰ではいられなかった。少しでも油断すれば、一瞬で状況が変化してしまう現代を生き抜くために、BBSは己のブランディングに、そしてモノづくりにメスを入れるのだ。それは決して過去を否定するものではなければ、歴史と伝統に反旗をひるがえすものでもない。むしろ、その歴史と伝統を誰よりも大事にし、それを後世に伝え、自身がずっと発展したいと願うからこそ、BBSは生まれ変わらなければならない、と判断したのだと思う。



 20世紀、我々はあのキラリと輝くクロススポークに憧れた。はるか遠い異国の地で走るレーシングカーに恋い焦がれ、街で見かけるその表情に目を奪われた。その当時の存在感を、そして問答無用の格好良さを、BBSは今あらためて訴えようとしている。それは表層的なデザインや、アプローチを変えるだけのリ・ブランディングではない。「世界最高峰の技術を内包した製品であり、なにより人々にとって“憧れの存在”であること」を変えないためのリ・ブランディングだ。そう思い至り、ふたたび褌を締めてかかるBBSは、これから我々にいったいどんな憧れを抱かせてくれるのだろうか。  BBSは「変わらないためには、変わり続ける必要がある」と課し、自らで第2章の幕を開けた。




interviewee

BBSジャパン株式会社 執行役員 ブランドマネジメント責任者田中 康博 氏

商品企画から広告宣伝、広報などあらゆる業務でBBSジャパンを支える。
特に自社製品の魅力を次世代へと訴える活動には力を注ぎ、BBSのリ・ブランディングを引っ張る。


>>0と1の間に ある感触。BBSの真実。|BBS_STORY_01

>>BBSジャパンが描く、ホイールの未来。|BBS_STORY_03




初出:eS4 No.94(2021年10月号)

TEXT>>DAICHI NAKAMIGAWA(中三川大地) PHOTO>>NINA NAKAJIMA(中島仁菜)

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