〜法律の制限が弱く改造度が高い印象も〜　日本旧車へのあこがれ｜ニッポン旧車の楽しみ方 マレーシア・スペシャル　Vol.4

海外でニッボン旧車がどのように乗られているか、またオーナーたちはどのような人たちなのか……。そんな興味を毎号掘り下げていく企画で続いている連載。
今号ではアメリカを離れて、東南アジアの国「マレーシア」で取材を敢行した。現地は日本と同じ左側通行で、右ハンドルのクルマが基本。日本車輸入天国かと思いきや、マレーシア独自の自動車産業が発展していたのだった。

【ニッポン旧車の楽しみ方 2016年 マレーシア・スペシャル　Vol.4】

【3】から続く

　会場に並んだクルマを眺めてみたところ、平均的には荒削りの仕上がりとの印象は否めなかった。併せて改造度が高いことが目を引いた。法律の制限が弱いからだ。
「新車も中古車も、購入時には車両検査があります。ところが個々の車体の定期検査をやるには、役所側がそこまで手が回っていないというのが実際のところ。だから改造はある意味やり放題とも言えます。道路では整備不良の国産車やトラックが警察に止められやすくて、旧車は比較的目をつぶってもらえる傾向があるんです」
　語ったナイムさんとユーさんの語調には、マレーシアがまだ自動車発展途上国だとの認識が垣間見えた。
　排気量の小さな日本車は、維持費用のうえでも利点がある。
「年間登録料が極端な累進課税みたいで、排気量によってものすごく変わるんです。1.6Lは2300円。3Lなら5万3千円だからまあ払おうと思えば何とか払える。ところが例えば5Lになると何と28万円ですよ！　　　」
　ユーさん自身も驚くように言った。


>>【画像25枚】若年層が主体だったマレーシアの日本旧車ファン。日産サニーに相当する車種は3代目B210系が多い。1981年に日本から輸入された個体らしいとという1976年式ダットサン120Yなど


「マレーシアのうち、東マレーシアのほうがレアな旧車が多いです。ブルネイはお金持ちがたくさんいて、外国から個人輸入をしている。そこからマレーシアへ陸路で入ってくるんですね」
　ナイムさんが言った。クルマに広く興味を持つナイムさんやユーさんなど、マレーシアの旧車ファンのうちクールに日本旧車に接している人たちは、日本旧車を好きになった理由を「親が乗っていたから」と語る。日本やアメリカの同世代の旧車ファンと共通する、少年期の記憶の追体験が存在している。その次の世代になるとインターネットからの日本文化風俗の流入の影響が強くなる。アニメやテレビドラマ、それにクルマのイベント。日本人が何をしているかよく知っていて、敬意やせん望のまなざしを向けながら、それをいち早く取り込みたいと思っている。
　この国で残念なのは、盛り上がりを見せる日本旧車熱に対して、国内に現存する日本旧車の絶対数が少ないことだ。それ故に主要部品の再生産も国内では行われず、インターネットが発達したといっても特殊な部品を入手することはやはり容易ではない。
「日本旧車の世界ではアメリカとかと違ってマレーシアが目立たない国なのは分かっています。でも僕たちの気持ちは熱い。世界で認めてもらえる日本旧車国になんとかなりたいのです」



料金所を抜けた後、ポリスがスピードガンを持って路側帯に立っているのに遭遇。スピード違反の罰金は8000円程度だそうだが、検挙後すぐに納付すれば半額に減額されるという、何とも違反者にとって甘い制度があるらしい。一般道に降りると、ホンダ・スーパーカブ系のバイクがクルマの間を縫うように猛スピードで走り抜けていく。日本の原付以上のすばしこさだ。



　会場を離れて、3時という遅めの昼食をとりながら、ユーさんが熱弁をふるった。そこには、自分たちのパッションと外界からの注目度のギャップを容易に埋めることのできないもどかしさが表れていた。
　世界のどこにでもクルマ好きがいて、世界のどこにでも日本旧車が存在している。それを頼りに旅をすることができて、日本とその国の歴史を振り返ることができる。日本旧車をつくってくれた我らが先人に感謝、である。




まずまずの状態を保っていた日産フェアレディ280ZXはキム・サイ・ポーさん。





きれいに塗装されていたE70系トヨタ・カローラ4ドアセダンはアーマッド・アビディンさんの愛車。オーバーフェンダーを装着している車両が多く、人気の改造アイテムのようだった。




クルマ好きの同じ地元グループから、ヨーロッパ車も参加。1984年式E30 BMWはエド・ジャリルさん（左）。ボルボ740ワゴンはショーン・ピーター・ネットさん（右）。


初出：ノスタルジックヒーロー 2016年 10月号 Vol.177（記事中の内容は掲載当時のものを主とし、一部加筆したものです）

ニッポン旧車の楽しみ方 マレーシア・スペシャル（全4記事）

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