「このクラウンは、うちの奥さまと同じ、特別で大切な存在なんです」【3】1960年式 トヨペット クラウン RS20

カスタマイズは外装だけでなく、ご覧のように内装もほぼすべての部分に手が入っている。RS20クラウンは機能優先でシンプルな内装だったが、観音開きのドアを生かしたしゃれた車内に変ぼうさせている

       
人にとって30年はとても長い時間であることは間違いない。しかしクルマにとってはどうだろう。
機械であるクルマの場合、特に旧車ではメカニズムのメンテナンスをし続ければ、走らせることは可能だ。
今回、30年前に撮影した同じシチュエーションで、同じシーンを再現。まさに時空を超えた瞬間が訪れたのだ。

【1960年式 トヨペット クラウン RS20 Vol.3】

【2】から続く

 一方、レストア&カスタムショップの仕事のほうも順調にオーダーがあり、以前から考えていた工場新築のめどもついて充実した日々を送っていた。オーダー待ちのお客さんの協力もあって、ほぼ手作りの工場も完成した。そんな中、1987年11月15日にオーナーは奥さんと結婚した。その日にお嫁さんを迎えに行くために、1年前から仕事の合間にクラウンをカスタマイズして仕上げたのだった。

「結婚式が11月で、さすがにオープンカーでは寒いので(笑)、クラウンを選びました。当時国産高級車のクラウンをアメリカ風にカスタマイズするのは珍しかったので、各地のカーショーでも絶賛されて、賞もいただきました」

 その後、友人の結婚式や友人の娘の結婚式でもクラウンは活躍。まさに幸せを運ぶクルマとして、いくつもの縁をつないでくれた。
 クラウンはエアコンの効いた店内でお客さまを迎えている。風格を増して、30年の時を感じさせない輝きを放っていた。クルマは道具であり機械だが、人と深く接することできっと魂が宿るのだろう。オーナー夫妻も共に年を重ね、さらに絆が深まったようだ。

「このクラウンは、うちの奥さまと同じ、特別で大切な存在なんです」
 オーナーは、そう言って笑った。



>> 【画像28枚】ロケ場所である長野県飯田市の杵原学校は国指定登録有形文化財。特別な許可をいただいて、最初の取材当時と同じシチュエーションでの撮影が実現した







>> 本誌のロゴタイプは、今でこそ赤のイメージで定着しているが、当初は黒だった。表紙車両はピンナップにもなっている日産シルビア。巻頭記事は「異邦人デザイナーの伝説」で、スカイラインスポーツ、シルビア、いすゞ117クーペ、ルーチェ、コンパーノ・スパイダー、コンテッサ1300クーペなどを掲載。特集が「いつかのクラウン」だった。







>> 国産高級乗用車として1955年1月に登場したトヨペットクラウン。はしご型フレームと観音開きドアを持つボディはそのままに、56年と58年にマイナーチェンジされた。USカスタムを取り入れてクラウンを仕立てたいと考えたオーナーは、大胆にボディを白パールで塗装し直し、ルーフはキラキラ光るキャンディ塗装。これは一世一代の願望を実現させるための「装束」だったのだ。





初出:ノスタルジックヒーロー 2018年8月号 Vol.188
(記事中の内容は掲載当時のものを主とし、一部加筆したものです)

1960年式 トヨペット クラウン RS20(全3記事)

関連記事:創刊のころに取材した、クルマとオーナーを訪ねる旅

関連記事: 旧車と共に歩んだ30年

関連記事:クラウン



【1】【2】から続く

photo : ISAO YATSUI/谷井 功

RECOMMENDED

RELATED

RANKING