「オートマティック? ノー、ノー。やっぱりつまんないよ」アメリカのAT車事情 【3】親子で楽しむ2台のツーフォーティー

市街地を走り抜けるカリフォルニアの陽光に照らされたZの淡い色のボディが、くすんだ色合いの街並みと奇妙なコントラストを成した

       
S30の型式名を持つ初代の日産フェアレディZは、北米でダットサン240Zの車名であることはよく知られている。そして日本のS13日産シルビア(180SX)は、北米向けに2.4LのKA24E(DE)型エンジンを搭載して、240SXの車名になっている。父親の愛車が240Z、娘が240SX。2台の「ツーフォーティー」に乗って仲良くカーライフを楽しんでいる親子をたずねてみた。

【ニッポン旧車の楽しみ方 第43回 親子で楽しむ2台のツーフォーティー Vol.3】

【2】から続く

 クルマを手足のごとく操るスポーツカーの醍醐味。シフトチェンジという作業も楽しみの一つだ。とは言うものの、ATのスポーツカーが存在するのも事実。例えば日本を代表するライトウエイトスポーツ、ユーノス・ロードスターは発売翌年の1990年にATが選べるようになった。ちなみに1991年に日本でAT限定免許が登場した。

 ダットサン・フェアレディには設定のなかったATをフェアレディZの発売3年目に追加した理由、それは「マーケットを広げるため」と言われている。Zの売り上げが好調だったアメリカでは、乗用車の8割がATと圧倒的だった。40年代から1960年代にかけてアメリカでATの割合が増えたのは、動力伝達効率の悪かった初期のATでも大排気量のクルマになら使えたから。そんなアメリカだったにもかかわらずZのAT率はわずか1割強だったという。

 日本の市販車にATが登場したのは59年のこと。米GM社のATパワーグライドを模したトヨタの「トヨグライド」だ。対する日産は1966年、米ボルグワーナー社製の3ATを410系ブルーバードに搭載。すぐに国内生産に移行し、翌1967年には初代サニーでジヤトコ社製3N71型ATを実用に供してみせた。3N71A型を経て改良された3N71B型はB110系サニー(1970年)を皮切りに、ハコスカや510系、さらにはL20型エンジンのS30系(1971年)にも搭載されるに至った。

 ATの基本構造は流体継手でMTのクラッチを置き替え、変速は遊星ギアで行う。遊星ギアは3軸の同軸構造で軸の組み合わせによって2速+反転ができる優れた機構だ。初期のトヨグライドで使用されたこの基本構造にギアを追加し前進3速としたのが、ジヤトコが手本としたボルグワーナー製35型AT。現代では複雑に遊星ギアを組み合わせた多段ATが主流である。
 日本の異端児がホンダだった。アメリカ企業に牛耳られていたAT関連の特許を用いることをせず、独自のAT「ホンダマチック」を作り上げた。トルクコンバーター(流体継手の一種)の特性を逆手にとり常時噛み合い型トランスミッションと組み合わせ、シンクロ代用の油圧クラッチを動作させた。

 スポーツカーのAT化ではドイツ、なかでもポルシェが熱心だった。MTのシンクロ機構を指して「シンクロ同期に時間がかかる」ため変速動作が遅いと考え、むしろダブルクラッチ操作による変速を「時間的ロスがない」とみなす理屈っぽい思考回路を持つゲルマン人。スポルトマチックからティプトロニック、そして最新のドッペルクップルング(デュアルクラッチ)は、奇数段と偶数段に分けた常時噛み合い型トランスミッションを交互使用する。コンピューター制御の可能となった現代だからこそともいえる変速方式だ。この方式は他メーカーへも普及し、2007年に発売されたニッサンGT‐Rにはもはやスティックシフト仕様はなく、2ペダルのデュアルクラッチ仕様しか用意されていなかった。

>> 【画像13枚】競り合うように山道を走り抜けた2台の240など




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>> ガレージの中で240Zと並んでいたのはボルボP1800というクルマ。古いながらもコンディションは上々で、「きれいに整備して売る予定です」と言った。車種を問わず、乗られないままになっている旧車を見つけてきては、整備清掃する。こうしてクルマが息を吹き返す。ダットサンのワゴンやピックアップも、これまでに何台も手がけたという。


初出:ノスタルジックヒーロー 2018年6月号 vol.187
(記事中の内容は掲載当時のものを主とし、一部加筆したものです)

親子で楽しむ2台のツーフォーティー(全4記事)

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【1】【2】から続く

text & photo : HISASHI MASUI/増井久志

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