「ケンメリ」の外装デザイナー。松井孝晏【1】入社して最初に手がけた作品は、個性際立つ初代チェリーバン｜C110スカイラインのエクステリアができるまで

4代目となるC110系スカイラインは、広告やコマーシャルの影響もあり「ケンとメリーのスカイライン」として、デビュー後、瞬く間に人々に知られる存在となった。その印象的なボディのデザインを当時担当したのが、松井孝晏さんだった。入社2年目の若いデザイナーが新型スカイラインの社内コンペに参加し、勝ち取った大きな仕事。ピュアな感覚でがむしゃらに取り組んだからこそ生まれた作品だと、当時の思い出を語ってくれた。

【C110スカイラインのエクステリア担当デザイナー「松井孝晏」　Vol.1】

　3代目の「ハコスカ」とともに、今も人気を誇っているのが「ケンとメリー」のニックネームで呼ばれ、愛されている4代目のC110系スカイラインだ。ベールを脱いだのは、45年前の1972年9月。4気筒エンジンを積むファミリー系モデルと6気筒エンジンを積むためにロングノーズとした2000GTシリーズが同時に発表されたのは、スカイライン史上初めてだった。
　エクステリアのデザインテイストは3代目と大きく違う。ウエッジシェイプを強調するモダンなデザインに生まれ変わったのである。サイドビューも躍動感と立体感あふれるデザインだ。リアフェンダーのサーフィンラインは彫りが深く、存在感が際立つ。

　主役となった2000GTシリーズは丸形デザインのテールランプを採用した。2代目も丸形デザインである。が、スカイラインのアイデンティティーになり、デザイナーとユーザーが強いこだわりを持つようになるのは、ケンとメリーが採用してからだ。これ以降、丸形テールランプはGTシリーズに欠かせないアイコンとなった。


>>【画像13枚】初代チェリーセダンをベースにしたバンへのモディファイが、カーデザイナーとして最初の作品。スタイリッシュな2ドアバンを造りあげた。1978年5月にデビューした初代パルサーも松井さんが手がけた。「パルサー・ヨーロッパ」のキャッチコピーで人気を博したFF車だった




>> C110スカイラインのデビュー当時に描かれ、広告や印刷物に使われたハードトップのイメージスケッチ。右端に松井さんのサインが入っている。


　空前のヒット作となったケンとメリーのスカイラインをデザインしたのが松井孝晏である。後にR33も担当するなど、スカイラインとは縁が深い。日産自動車に入社したのは3代目スカイラインが登場する1968年の4月だ。入社すると、旧プリンス系のデザイナーが集う第4設計部造形課に配属された。この部署は日産社内で「荻窪スタジオ」と呼ばれている。担当するのは、スカイラインやチェリーなど、旧プリンス系が手がけてきたクルマだ。

　松井が最初に担当したのは、1970年秋に発売が予定されていた日産初のFFコンパクトカー、チェリーである。荻窪スタジオのエースである森典彦がデザインしたセダンのルーフを延ばし、バンにする作業を命じられた。

「プリンス自動車の造形課は日産と合併することが決まっていたし、景気も悪かったから、落ち着くまで新入社員を取らなかったのですね。私が久しぶりの採用でした。同期は3人で、エクステリアデザインは2人です。

　デザイナーが少なかったからか、研修と教育をそこそこに、目いっぱいデザイン作業をさせられました。入社して最初に命じられたのがチェリーバンです。上司の森さんがデザインしたチェリーセダンのルーフを延ばし、バンに変更しました。この作業を通して森さんから多くのことを学びました」
　と、松井は入社1年目を振り返る。

　チェリーのデザインプロジェクトが一段落すると、松井に新たなチャンスが巡ってきた。荻窪スタジオの主力モデルに成長したスカイラインの次期モデルの開発がスタートしたのである。入社して2年目を迎えた1969年、森課長に可愛がられていた松井は、先輩たちとともに4代目スカイラインのデザインコンペに参加した。



>> 今、改めてこのスカイラインを見ると きれいだな、美しいクルマだなと思いますね

（文中敬称略）

【2】に続く

初出：ノスタルジックヒーロー 2017年10月号 vol.183
（記事中の内容は掲載当時のものを主とし、一部加筆したものです）

C110スカイラインのエクステリア担当デザイナー「松井孝晏」（全3記事）

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