1.3L NAで180ps! 第17技術部。紛れもないトヨタワークス| 1975年 トヨタ スターレット スペシャルツーリングカー仕様 Vol.2

桑原さんに「クワハラとトムスの違いは」と尋ねてみた。桑原さんはドライバー時代(KE10)から独創的な発想力を持ち、独自のセッティング、チューニングでひと際速いところを示してきた実績がある。基本的にはエンジン性能を生かすサスペンションセッティング、エンジン性能もピーク値ではなく帯域を重視する考え方で、そこからタイヤサイズなどを決めていく手法を採ってきたとのこと。理路整然とした桑原流、これが速さの秘密だった。

       

鮮烈だったデビュー戦

【 1975年 トヨタ スターレット スペシャルツーリングカー仕様 Vol.2】

【1】から続く

 2L 18RG型用の152E、1.6L 2T‐G型用の151E、そして1.3L 3K型用(3K型は1.2Lだがレース用はこれをスケールアップして使っていた)の137Eで、137E型はカローラ系(KE20系)でもなくパブリカ(KP31)でもない新型車、パブリカベースの2ドアクーペ、パブリカ・スターレット(KP47)に積まれ、1973年富士GCシリーズの最終戦、11月22日に開催された富士ビクトリー200キロレースのMT部門に突然登場した。

 久木留博之(№25、赤)、舘信秀(№26、黄)の2台で、エントラントはTMSC‐R。もちろん車両企画は第17技術部で紛れもないトヨタワークス。

 とにかく鮮烈なデビューだった。この時点ですでに180psはあったという137E型エンジンは、予選からケタ違いのスピードを披露。前戦となる富士マスターズ250km(10月)MT部門のポールタイムは2分5秒98。東名、土屋、オオツカといった有力サニー勢を退けた大森チェリーに乗る星野一義のタイムだったが、久木留のスターレットはなんと2分1秒28! をマーク。サニー/チェリー勢に対して5秒近くも速く、スカイラインGT‐Rが2分の壁を破ったのが活動最終年となる前年の1972年だったことを考えれば、このスターレットの速さは規格外、想定外のものだった。

 もちろん抜群のシャシーバランスで、天候によってはロータリー勢と互角の勝負をしていた兄貴分、ミドルクラスのセリカも楽々と凌駕する化け物ぶりを発揮していた。

 久木留と舘のスターレット2台はスタートから後続を引き離すと、あとはフォーメーションを組んで20周を流し(?)1、2チェッカーを受ける余裕のゴール。3番手・高橋健二の東名サニーとの差はわずか21秒(?)だったから、スターレットの2台がいかに抑えたペースでレースを進めていたかが想像できるだろう。

 その後KP47DOHCスターレットは、トヨタワークスの活動休止とともに1974年シーズンは鳴りを潜めていたが、1975年に入るとトヨタ系有力プライベーターに放出され、常勝軍団サニー勢と真っ向から対決。力でこれをねじ伏せ、その後のMTのタイトルをほしいままにしていくのである。

 この137E型エンジンを搭載するKP47スターレットは合計5台が造られ、2台がトヨタワークス製、3台が綱島(現TRD)製となっていた。

 今回、ここで紹介する137E型搭載のKP47スターレットは、クワハラ自動車を率いた桑原彰さんが所有する唯一の現存モデルで、初優勝を記録した1973年の久木留車そのものである。

 桑原さんの手に渡った同車両は、門下生である竹下憲一や森泰章らに、時には鈴木恵一もドライブしたが、主にJAFグランプリ/日本グランプリのMT部門(75年JAF、76年日本グランプリ優勝、竹下憲一)と鈴鹿サーキットを中心とする活動に重点を置いたという。

 桑原さんの活動については、本誌112ページからの「トヨタモータースポーツの20年」で詳しく触れることにするが、このDOHCスターレットは70年代中後半の富士MTレースで暴れまくり、4年連続でタイトルを獲得する強さを見せていた。

 こうした意味では、決して「常勝サニー」という表現を使うことはできないのだが、この圧倒的に速いスターレットを標的に、なんとかその差を詰めようと改良に改良を重ねたことで、気がつくとサニー勢のポテンシャルは、常識をはるかに超すレベルにまで高められていたのである。

 最終的には210psを超す途方もないレベルに達した137E型は、どうあがいてもA12型サニーでかなう相手ではなかったが、この強さ、速さが逆にライバル、サニーを育てる結果となっていた。
「サニーに乗っているときはクラス違いの車両と思えたが、スターレットに乗り換えてみると、常にミラーに映るサニーの存在が不気味だった」

 両モデルでMTを戦った和田孝夫のコメントが、スターレットのすごさとサニーの執念を物語っている。


バルクヘッドが改造され、改善されている3本のペダル位置など【写真7枚】




ハイカム構造のプッシュロッドOHV、3K型をベースに4バルブDOHC化したトヨタ137E型(3K-Rの別称も)エンジン。スライドプレートを使う日本電装製のメカニカルインジェクションを装備。





フューエルラインが二重となっているのは、この時代のワークスとしては当然か。安全燃料タンクを低位置に、オイルラインを延ばしてトランクルーム内にタンクを設置。潤滑のマージンを見込んだチューニングだ。



初出:ノスタルジックヒーロー 2014年 12月号 Vol.166(記事中の内容は掲載当時のものを主とし、一部加筆したものです)

1975年 トヨタ スターレット スペシャルツーリングカー仕様(全4記事)

関連記事:モーメント・オブ・ザ・グローリー

関連記事: スターレット

text : AKIHIKO OUCHI/大内明彦 photo : MASAMI SATO/佐藤正巳

RECOMMENDED

RELATED

RANKING