多くの試練を乗り越えた集大成。|911 Carrera S (Type 991.1) tuned by The Check Shop

MOTOR THINGS 2023/05/17

ボディカラーはホワイトからブルースターグリーンにオールペン。深みのある濃い緑色はスピードを感じる色調だ。ベントレーの配合で塗っている。エクステンションを追加しているフロントフェンダーにはカップには存在しないダクトがある。これはタイヤハウス内の圧力の上昇を抑えるために空気を抜くコーレンストッフ製のアイテムだ。

作業が困難だったという事実が確認できただけでも収穫だ。その理由がかけがえのない財産となっていく。「困難」を積み重ねて、その都度対峙しなければ、本物の実力は身につかない。


  艶やかな仕立て方から、速さを追求したセットアップまで、クルマいじりのノウハウを豊富に持ち合わせているチェックショップの大塚代表。個人的にポルシェが大好きなこともあって、911のモディファイには定評がある。雰囲気重視、機能最優先と柔軟に成し遂げるテクニックが多くのポルシェ好きを魅了する。
「この991・1のカレラSは走りを特化させました。チャレンジャーなオーナーなので、独自のアプローチで攻めて個性的にまとめています」  
現在のカレラは排気量を抑えて、その分ターボを使ってパワーを補っている。しかしこの時代のカレラSはタイプ981のケイマンGT4とほぼ同じ3・8ℓのNAエンジンを搭載。それならば改めてエンジンをやらなくても、足をカップにするだけで十分に速くなるのではないか。そんな妄想がこのクルマを仕立てる原動力になっている。  
機能を考えてルックスはカップと見紛うほどにスパルタン。それでいてホイールがセンターロックでなく5穴ってところがシブい。とはいえ単なるカップルックにしたかったわけではない。純粋に富士で注目されるポテンシャルを注ぎ込みたかったのだ。最終的に満足できなければカップのエンジンに載せ換えればいい。   
同じようなアプローチを997でも経験していて順調に仕上がったから、991でも平気だろうとたかを括っていた。ところが予想外の困難にことごとく作業を阻まれた。フレームなどがスチールの997に対して991はドアあたりの真ん中はスチールながら、前後のフレームはアルミ製。そんなところが関係して接続は接着が多く、メインとサブのフレームはボンドで固定されている。   
これが困難の原因だ。エンジンやリアのサスペンションをカップ用に変更する場合、リアのサブフレームを交換しなければいけないが、接着だからそれができない。幸いフロントはアップライトやロアアームをカップ用に変更できた。こうすることでカップのブレーキが使えるし、何よりもジオメトリーもカップになる。ここが肝だ。ルックスだけをカップにするのは簡単だがそれではこのクルマのコンセプトから外れてしまう。カレラSベースで速いクルマを作ることに深い意味がある。 
「最初から高性能なクルマもいいけど、あれこれと手を入れてクルマを作っていくことでめちゃくちゃ学べました。突き詰めるのが面白かった。カレラSでは曲がらないのに、なぜカップは曲がるのか。フロントまわりのカップ化で、その核心に触れることもできたんです」と振り返る。  
アップライトをカップにしたので本来はセンターロック化のほうが簡単である。しかしリアホイールとの兼ね合いで5穴を決断。これも悲しくなるほど大変だった。ハブベアリングの径が違うのでスペーサーを作ったが、精度が出せず、ABS用のスピードセンサーのピックアップが取れない。試行錯誤を繰り返してなんとか対応できた。
「とにかく大変でした。罠があらゆる部分に潜んでいましたからね。無駄にしたパーツはいっぱいあるし、やんない方がよかったなどと逃げ出したくもなったけど、今振り返れば、そうした失敗をしないと正解には辿り着けなかったことが実感できて、とても贅沢な経験だと気づきました。お金も時間もたっぷりと費やしましたからね。だから今作るのは簡単です。機能の追求に終わりはありません」

ポルシェ
カップのルーフには万が一の時に脱出できる突破口が設けられている。正式名称はエスケープハッチだ。

問い合わせ=The Check Shop tel.045-979-4001 checkeuro.sub.jp

初出:PORSCHE Graphix.

写真=中島仁菜 Nakajima Nina 文=増田髙志 Masuda Takashi