【ストイックに突き詰めた 走れる魅せれるHONDA美学の最高峰】

       
あまりにもシーンで高名な1992年式のホンダ逆輸入モデル、アキュラ・インテグラGS‐Rをご紹介させていただこう。



この個体、実はアメリカで1年にも満たない期間で4000台そこらしか生産されておらず、日本じゃ聞きなれないB17A1というエンジンが搭載されていて、当時「NSXジュニア」と呼ばれていたほどのステータス性を持った希少なグレードだ。しかしここで紹介するマシンの全容は、はっきり言ってハンドルの位置が左だからとか、希少車種だからってのは全く関係ないくらいブッ飛んでいる。
USカスタムカー系のイベントで何かと露出しているこのクルマを、海外メディアやSNSなんかで見たことあるって人は結構多いと思うけど、「実際のところ、車高が死ぬほど低いわけじゃないし、リムツラがキマっているわけでもないし、フェンダーメイクやカスタムペイントがされているワケでもない。そりゃ確かにどう見てもツルツルでピカピカのエンジンルームは凄そうだけど、実際のところ、全体として何がどうスゴイのかは実はあまり分からない」という人も多いのではないか?



ただエンジンベイがキレイってだけじゃ日本最高峰の「ホットロッドカスタムショー」でベストドメスティックカーに選ばれたり、「ウィークフェストジャパン」で350台オーバーの参加車の頂点に選ばれたりはしないだろう。なぜこのクルマが日本のみならず海外でも高評価を受けているのか。その全容をここでキッチリ紹介しよう。



それを知る大前提としてまず現在の本場における「スタンスシーン」について知っておく必要がある。読者もこの車両を(日本の)スタンス的には大したことないと思っているはずだろう。今スタンスは日本のシーンでは最盛期と言えるほどの盛り上がりを見せているが、そのスタンスのルーツとなったアメリカのカスタムカーのトップシーンでは、実はすでにメインストリームではなくなりつつあり、キャンバー競争などで盛り上がっているのはごく一部だ。ファッションやミュージックなどと同じくスタンスも、カスタムカーシーンの長い歴史のひとコマに過ぎないのだ。本来ツライチスタイルを指す「スタンス」という言葉が、いつの間にか「様々なシャコタン」の広義の言葉として用いられるようになっているのもその兆候と言えるだろう。

当初のスタンスでシーンを沸かせた先駆者たちはもうすでに別のムーブメントに移行しており、空冷ポルシェを手に入れたり、タイムアタックなどのTRACK系や、SUVで山や川で遊びまくるオーバーランダー、そして長い歴史を持つホットロッドや欧州圏のクラシックVWを筆頭とするレストモッドなどに移行するカーガイが後を絶たない。
この兆候には日本人とは比べ物にならないアメリカ人のカスタムに対する向上心が前提にあるのだが、それに拍車をかけたのは「エアサス」が蔓延しすぎたことも起因する。エアサスが当たり前状態になったUSシーンにおいて「エアーでツラ」はあっという間にこなせる「普通のメニュー」になってしまっている。そのメニューのみで完結する傾向の強い「現状のスタンス」では、他車よりも優位性を感じられるのは車種選定とホイールチョイスくらいで、それでは彼らはもう満足出来なくなっているというわけなのだ。  

そんなUSシーンの現状を把握するとあら不思議、このインテグラがちょっとイケて見えるようになったはず。このインテグラのオーナーもかつてはワーゲンゴルフ5をベースにスタンスシーンのメインストリームで活躍していた人物であり、そのネクストチャレンジとして2台のホンダを乗り継ぎ、ここに今まさしく前述のレストモッドをホンダ乗りとしてやり遂げているのだ。  

その固唾を呑むほどにキレイに仕上げられたエンジンベイも、ただツルツルにして磨いているだけではない。というのも日本でもポピュラーになってきているシェイブドエンジンベイ&ワイヤータックが施されている車両の大半は、アメリカや欧州のそれらの表面的な部分のみを模しているほぼノーマルエンジンというケースが多い。 「魅せるエンジンベイ」のそもそもの発端は、レースシーンにおいて配線1本から不要な部品を究極的に撤去する「軽量化」をルーツとした、最新のパフォーマンスパーツなどが組み込まれたエンジンをカッコよく魅せるためのデモ要素が強い手法であり、“チューニングエンジンである”ということが大前提なのだ。




このインテグラは本来ホンダ車の定番メニューであるレイトモデルのエンジンにスワップしてお手軽にパワーアップという手段をあえて選ばず、希少エンジン過ぎてこれまでチューニングの前例のないB17Aエンジンをベースに、ホンダチューニングシーンの英知を結集させたメカチューンが投入されている。  


また、ノーマル然としていながらも、凛とした佇まいを見せている内外装は「このモデルのインテグラに“タイプR”グレードが存在していたら」というコンセプトによって仕上げられており、ホンダ乗りならば思わずニヤけてしまうほどのリアリティあふれるディテールだ。エンジンベイのコンポーネントとリンクさせるかのようにチョイスされたビレット製シフターなどの挿し色もとい“挿し素材”も絶妙。  





足回りは今現地で盛り上がりを見せているタイムアタックなどのトラック系に多い、ツラをリムで合わせるのではなくムッチリ張ったタイヤのショルダーで絶妙にフェンダーを交わす“ミーティーフィットメント”をショーオフ仕立てにブラッシュアップさせたメニュー(無論“食わない”タイヤでこのスタイルは完全に陸サーファー仕様だが)。  



ありとあらゆるネジが新品+被膜処理が追加投入されていたり、サスペンションパートもパウダーコートクロームが施されていたりと、掘り下げれば掘り下げるほど、ため息しか出ない壮絶なメニューが全方位に、かつ緻密に投入されている。  つまりオーナーの江藤サンがこのインテグラで目指したのは、ジャンルのテッペンがほぼ見えかけている“シャコタン”スタンスでもUSDMでもなく、そんな垣根を超えた次のステージ「レストモッド・ホンダ」。そのことをスタンスの次なるステージに向かっている世界中の事情ツウたちが認識しているからこそ、彼のDAに大きな評価が与えられいるのだろう。

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【『カスタムCAR 2018年8月号掲載』】
BASE CAR:アキュラ・インテグラGS-R(DB2)1992年型
OWNER:ETO MASAFUMI
CONCEPT audio&alarm
Kazu Imai(Raicon)
YSNER AUTOMOTIVE

PHOTO/南井浩孝 TEXT/ユニこーん

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